松木則夫教授の睡眠と睡眠薬に関するご講演

松木則夫政策ビジョン研究センター特任教授のニューヨークへの来訪を機に、10月2日Tiger Pacific Capital LPにて「睡眠と睡眠薬」というテーマで講演および懇親会が行われた。松木教授は東大理事・副学長でおられ、また東大友の会理事を務められている。日本薬学会及び日本薬理学会を中心に学会活動を行われ、両者で会頭(理事長)と年会長を務められた。

講演は、まず“なぜ眠りは必要なのか?”という問いから始まり、動物種によって睡眠時間や形態はバラエティーに富んでいること、睡眠の役割及び睡眠の質についてわかりやすく紹介された。さらに、神経伝達に着目して、眠りの仕組みについて解説いただき、興奮性神経伝達覚醒に関与する神経系とそれを抑制性する神経系伝達のバランスが重要であると述べられた。その上で、主な催眠薬の種類(ベンゾジアゼピン、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗ヒスタミン剤など)と、それらがどのような仕組みで睡眠を促すのか解説された。それぞれの薬が誕生した、意外な背景も紹介してくださった。

また、日本では抗うつ薬の処方率は低い一方で、催眠薬の処方率が他国に比べて多いというデータも紹介された。日本では抗うつ薬に比べ、催眠薬のほうが抵抗感は少ない可能性を指摘された。さらに、記憶とアルコールの関係についての実験成果についても触れられ、恐怖記憶はアルコール摂取により増強されるという興味深い結果を紹介された。

最後に、催眠薬に頼る前にできる睡眠の対策、例えば睡眠時の環境(光、振動、寝具など)を見直す、睡眠のリズムは起床に焦点を当てて、起床時に光を浴びること、うつ病などが原因で不眠の場合は原疾患の治療を優先させるなどを挙げられた。さらに、質の良い睡眠を追求しすぎないことが大切かもしれないというメッセージとともに、講演をまとめられた。

”睡眠”という身近なテーマだったこともあり、講演後も聴衆からの多くの質問があり、Tiger Pacific Capital LP のマネージングパートナー武神淳之氏が閉会式の挨拶を述べられ、大盛況のちに終了した。

著者:柿沼薫  翻訳:FUTI


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