古谷教授ニューヨークで講演:海の恵みの将来

古谷研教授

古谷研教授

古谷研教授の講演「海の恵みの将来」が、東京大学New York事務所で9月19日 18-20時に行われ、FUTIの理事会・アドバイザー委員会のメンバーとNew York在住の卒業生の25名が受講した。

東大理事・副学長、東大大学院農学生命科学研究科教授、そしてFUTI理事でいらっしゃる古谷教授は、FUTI理事会出席のためNew Yorkに来訪されました。多彩なスライドで最先端の学術情報を分かりやすく提示され、講演中と講演後の質疑応答が活発に行われ、海洋環境の現状と将来への理解を深めました。講演では次のような内容が示されました。

我々は海の恵みというと魚や海藻を思い浮かべるが、大気成分の濃度調節や養分の再生など海洋生態系は様々な恵みを人類にもたらす。恵みは、大きさが約1 µm (マイクロメートル) ~数mmにわたる多種多様な植物プランクトンを起点とした食物連鎖を介した物質循環から生み出される。陸上の植物では、光合成が行われる葉を支える根・幹・ 枝などが必要だが、プランクトンは支援組織が不要なため、生物量あたりの生産効率が良く更新力が大きい。そのためプランクトンを底辺とする食物連鎖を構成する生物全体も更新力が強い。陸上では遥か昔に成り立たなくなった狩猟採集社会が海ではまだ成り立っているのはこのお陰だ。こうした更新力の強い海洋生態系では生物多様性が豊かであるほど生物間のネットワークがしっかりして恵みを生み出す物質循環が円滑に機能する。

20世紀後半に進んだ経済成長に伴う大量消費型社会は天然資源の急激な減少と自然環境の劣化をもたらした。海洋でも環境の劣化と生態系の変化が顕在化し、海の健康への関心が高まってきた。例えば、温暖化に伴う亜熱帯海域における海面水温の上昇は、海水が上下に混合しにくい状況をもたらし、表層の栄養塩の枯渇化を促進している。さらに、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は海水のpHの低下を招き、炭酸カルシウムの殻を形成する生物の生存を危機にさらし始めている。また、海運などによる人為的な生物の地理的移動によって各地の生態系が侵略種の影響を受けている。こうした海の健康の劣化は、生物多様性を減少させる方向にはたらき、人類がこれまでのように海の恵みを享受できなくなる可能性が顕在化してきた。

海の恵みを将来にわたって持続的に利用するためには、広大な海洋を、環境と生態系に注目して区分けして、それぞれの海域での恵みを生み出す仕組みを理解し、それを踏まえた海の管理が必要だが、そのために必要な科学的な知見はまだまだ不十分である。海洋観測や数値シミュレーションなどの自然科学的な研究と、海洋を保全するための方策の検討とその実現のための合意形成などの人文社会系の研究の協働が必要である。講演では、これらについて現在進められている取り組みが紹介された。

以上のような講演の後、最後に桑間FUTI副理事長が謝辞を述べられ「我々は日頃海洋の恩恵に気付き難いが、全人類が毎年1人当たり15万円の恵みを受けていることを学んだ。同様に母校東大から我々が受けている恩恵を改めて認識しよう」と結ばれた。

古谷先生記載の概要に基づき松下重悳まとめ


ニューズレター第14号の記事: