バイオリニスト、レイ・イワズミ博士、19世紀のバイオリン演奏の表現、作曲とテクニックについて講演: 100年の年月を超えた音楽の「握手」

2017年5月11日にレイ・イワズミ博士を迎えて、FUTI レクチャーシリーズの一環として90分にわたるレクチャー・デモンストレーション、「より豊かなバイオリン演奏の表現に向けて:19世紀後期における革新」をニューヨークで開催しました。

イワズミ博士は名バイオリン教師ドロシー・ディレイとヒョー・カンのもとでジュリアード音楽院の学部、修士と博士課程を修了し、リチャード・フレンチ賞を受賞されました。ブリュッセル王立音楽院では、かの有名なバイオリンの巨匠ダヴィド・オイストラフの息子、イーゴリ・オイストラフに師事、バイオリンと室内楽の2つの修士課程を首席で卒業されています。

イワズミ博士はパワーポイントによるプレゼンテーションと、18世紀の名匠ニコラ・ルポ(フランスのアントニオ・ストラディバリと呼ばれる弦楽器製作者)が製作したご自身のバイオリンを使って、30人ほどの聴衆に向けて、19世紀中後期のバイオリン演奏美学の進化について語られました。ビブラートやポルタメント(音と音の間のくぼみや滑り)など装飾用のバイオリン・テクニックは1800年代初めから進歩を遂げるが、当時はロドルフ・クロイツェル(1766-1831)やピエール・バイオ(1771-1842)、ピエール・ロデ(1774-1830)といったバイオリンの巨匠たちの主唱する原理が影響力を持っており、少なくとも19世紀前期までは鉄則であったともいえる、とイワズミ博士は説明されました。

講演でイワズミ博士はベルギーのバイオリニスト、ウジェーヌ・イザイ(1858-1931)が演奏するブラームスの名曲ハンガリー舞曲第5番の録音を分析し、自らもニコロ・パガニーニ(1782-1840)やフリッツ・クライスラー(1875-1962)の曲を演奏されました。さらに、博士はクライスラーが師匠として友人として親しんだウジェーヌ・イザイに献呈したレチタティーヴォとスケルツォ・カプリースOp.6も演奏されました。その他に、ロドルフ・クロイツェル、フェルディナンド・ダヴィッド(1810-1873)、シャルル・ド・ベリオ(1802-1870)やアンリ・ヴュータン(1820-1881)の楽曲分析とデモンストレーションもあり、イワズミ博士が完璧に弾きこなした各演奏を通して、参加者は表現の発達、バイオリン・テクニックと複雑な音楽のモチーフを聞き取ることができました。

さらに、イワズミ博士はヘンリク・ヴィエニャフスキー(1835-1880)は「バイオリンの世界ではジミー・ヘンドリックスのような存在」と述べ、ヴィエニャフスキーのレコール・モデルヌ、Op.10からの「ル・シャン・ドゥ・ビヴアック」を演奏されましたが、目覚しい三和音、四和音やダブルストップ(二和音)がエネルギッシュなリズムと調和して素晴らしい演奏でした。

最後にイワズミ博士はイザイが自ら作った曲を弾いている無音の映像をスクリーンに写し、それに合わせてバイオリンを弾き、予定された60分を優に超えたレクチャーは驚きと、笑いと、目を見張るような演奏で終わりました。参加者は100年の年月を超えた音楽の「握手」を目の当たりにしたようなものです。(イワズミ博士はジュリアード音楽院でイザイ関連の貴重な資料や原稿のカタログを作成されました。現在も、エディターと音楽コンサルタントとして活躍しておられ、ジュリアード音楽院の教員でもいらっしゃいます。)

Q&Aでは参加者から 文化、ファッション(流行)、作曲、演奏の関係について質問が相次ぎ、常に進化しているバイオリンの世界に関する見解、理論、将来の予測についての活発な意見交換で盛り上がりました。紹介されたパガニーニのように自ら作曲する偉大な名バイオリニストの黄金期が過ぎたことは残念であるが、 そのような日がきっとまた来ることを期待しているとイワズミ博士は語り、大喝采のうちに講演を締めくくられました。

著者:George Drapeau III (バイオリニスト、ビオラ演奏者、イワズミ教授に師事、St. Thomas Orchestra 会長)

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