FUTI レクチャーシリーズ:山田雅章FUTI理事長の講演「未来のエネルギー源、核融合と宇宙のプラズマの研究」

山田雅章博士

山田雅章博士

FUTI理事長である山田雅章教授の講演「未来のエネルギー源、核融合と宇宙のプラズマの研究」が2016年3月11日の6:30pmから Nippon Clubで行われました。表題から難しい話を予想していたFUTI関係者と同窓会員の出席者は、学界の新しい知見が美しい写真・動画を駆使して平易に紹介 されたことに驚きつつ大いに楽しみました。

この講演は、長年顕著な業績を重ねた物理学者に贈られるマクスウェル賞を、プリンストン・プラズマ物理研究所(Princeton Plasma Physics Lab)の栄誉研究員である山田教授が2015年11月に「宇宙、天文物理、核融合に関わる磁気再結合の基礎的実験研究と、実験プラズマ天文物理の領域で の先駆的貢献」で受賞された(東大友の会 ニューズレター第14号)ことを記念して行われたものです。

講演はまず、東北大震災の丁度5年目に当たるこの日に、被害を受けられた方々に今一度心を寄せ、科学を更に進めねばならぬという決意表明から始まりました。講演の内容は以下のようでした。

物質は温度を上げていくと全て、固体→液体→気体→プラズマと変化する。気体をさらに高温にすると、原子が陽イオンと電子に電離して飛び回るプラズマ になる。我々の身近にあるものでは、ネオン管や火などは分子ガスがほとんどではあるが、少量ながら電子とイオンからなる荷電粒子が含まれていて、プラズマとみなされる。また太陽自体も、黒点付近で爆発的にアーク状に吹き上がる太陽フレアも、コロナと呼ばれる発光現象を伴う太陽の大気も、全て高温のプラズマである、稲妻も濃いプラズマを含む。夢のエネルギーと期待されている核融合の実験は、高温のプラズマの中で原子核を融合させている。

プラズマを研究すると、(1)核融合の研究に役立つ。(2)宇宙の生い立ちが分かる。(3)地球の外気圏はプラズマなのでそこでの諸現象の解明に役立つ。

図1:銀河系の外にある星団

図1:銀河系の外にある星団

陽子や中性子(Baryonと呼ぶ)から成る普通の物質(Baryonic Matter)は、宇宙を構成する物質の僅か約5−6%で、暗黒物質が約27%、暗黒エネルギーが約68%を占める。ほとんどの普通の物質は プラズマ状態にあり発光している為、目に見える宇宙のほとんどは、プラズマであると言ってよい。

図2:太陽フレア(爆発) 太陽は1ヶ月に一回転自転するが、太陽のフレア(爆発)によって出来る太陽風は、方向を絶えず変えつつ地球に向かって地球の磁場と再結合する。

図2:太陽フレア(爆発)
太陽は1ヶ月に一回転自転するが、太陽のフレア(爆発)によって出来る太陽風は、方向を絶えず変えつつ地球に向かって地球の磁場と再結合する。

荷電粒子が飛び回るプラズマは電磁界を生み、電磁界はプラズマの運動を制御するという相互作用がある。このような磁気エネルギーとプラズマの熱エネルギー (運動エネルギー)の相互作用に磁気再結合(Magnetic Reconnection)が深く関わっている。太陽のプラズマ大気であるコロナガスでは、 磁力線のツナギ替え、即ち磁気再結合がひんぱんに起こっていて、磁場のエネルギーがプラズマの熱エネルギーに替わる。つまりは、プラズマを加速したり、加熱する。太陽の表面温度は6千度しかないのに、その上空のコロナガスは100万度にも達るのは、この理由によると考えられている。さらにMagnetic Reconnectionによって、加熱されたプラズマの運動エネルギーが太陽の引力に打ち勝って太陽風となって流出する。

図3:太陽風と地球磁気圏 太陽からの「太陽風」が地球磁場と反応してオーロラを発生させる。

図3:太陽風と地球磁気圏
太陽からの「太陽風」が地球磁場と反応してオーロラを発生させる。

地球の極地で見られるオーロラは磁気再結合と深く関わっている。太陽フレアが盛んになると、磁気再結合によってコロナガスが活発になり、大量の太陽風が地球に向かう。太陽風は2 日ほどで地球に到達し、 磁力線を一緒に運ぶが その磁力線が地球の周りにある地磁気と相互作用して、また磁気再結合(Magnetic Reconnection)が起こる。その磁気再結合によってプラズマが加速され運動エネルギーが増し、地球 の大気の酸素や窒素に激突し励起するから、これらが発光する。もし磁気再結合が起こらなかったら、オーロラは発生しない。

Princeton大学では山田教授が中心になって、人工的に磁気再結合を起こさせる実験装置、MRX=Magnetic Reconnection Experimentが20年前に構築され、以来次々と重要な実験結果が生み出され、数々の論文が学界に出されている。さらにMRXよりも大型の(FLARE=Facility for Laboratory Reconnection Experiment が、NSFと一部Princeton大学の数百万ドルの予算で現在建設中である。

核融合は理想的なエネルギー源として数十年にわたって実験研究が続けられているが、中々実用に至っていない。原子核の分裂を利用する原子炉に比べて格段に放射能公害が少なく、燃料の二重水素(水素の原子核に中性子が加わり質量2倍)は水に無限に含まれている。二重水素+三重水素→ヘリウム+中性子 という反応で、質量が若干減少する分が核融合エネルギーとして取り出せる。当初は各国の秘密研究であったが、中々実用に至らぬことが分かってから国際協力が進んでいる。一番有望とみなされているドーナツ型の装置Tokamakという名は露語である。VentureCapitalの資金で開発を進めている起業会社 Tri Alpha Energy, Inc.まで生まれた。一番進んでいるのは南仏に建設された国際 Tokamak実験炉 ITER= International Thermonuclear Experimental Reactorで、欧日露米中韓がすでに数千億円掛けているが、完成までは、更に数年以上かかると予想されている。

結論として、プラズマはダイナミックで美しいが、宇宙の神羅万象、宇宙の生い立ちに深く関わり、宇宙の研究には不可欠の研究分野であり、今後ますます、天文物理の分野で、この研究の重要度が増すと考えられる。核融合は高温プラズマを磁場で閉じ込めるが、それゆえに磁場による制御が大変困難で、時間がかかり研究費もかさむが、完成の暁には非常に大きな恩恵が人類にもたらされる為、長期的な視野で研究をする必要がある。特に若い世代の積極的参加が望まれる。


ニューズレター第15号の記事: