米国伊藤財団―FUTI奨学金オンライン懇親会レポート

米国伊藤財団―FUTI奨学金オンライン懇親会が、尾島理事長と小出奨学金委員の発想により、松下奨学金委員長が司会を務め12月4日に実行されました。奨学金受賞者が対面で奨学金委員会メンバーに報告する公式な機会はこれが初めてです。日本、アメリカ、ノルウェーから総勢20名が参加しました。なお、後述の通り、2週間後の12月18日には、第一回懇親会に参加できなかった3人の奨学生を含む17名が集まり、第2回目の懇親会が開かれました。  

第一回目の懇親会では尾島理事長が初めに挨拶され、COVID-19やアメリカ大統領選挙等で世の中が分断され大変な状況にある中、人々を団結させられる世界的リーダーが求められていること、そして次世代のリーダーを育てることはFUTIのミッションであることを強調されました。  

次に伊藤財団の遠山嘉一氏から、伊藤財団は(株)セブン&アイ・ホールディングス名誉会長の伊藤雅俊氏が、日本全体が貧しかった若き日に学資の提供を得て人生の推進力を獲得したご恩をお返しするという理由で創られた財団であること、すでに1000人以上の奨学金受賞者を送り出していること、米国伊藤財団-FUTI奨学金の受賞者は学問を学ぶだけでなく、留学先の文化を学び、そして人脈を広げ、感謝の気持ちを忘れずに、世の中に広めていってほしいことなどのお話しを頂きました。  

続いて、奨学金第1期生の古澤えり氏と、2019−2020年度の奨学金受賞者7名が奨学期間の実績、現在の活躍状況等を発表されました。最後に 本企画協賛のFUTI同窓会を代表して羽場優紀氏が挨拶されました。  

古澤えり氏(2016-2017年度奨学生)はColumbia GSAPP にて都市計画学の修士号を取得後、NY市都市計画局を経てHR&A Advisors, Inc.勤務ですが、次のように先輩として経験を語りました。 

大学では建築を学びました。その中で、どのような建物が建つか以前に、その敷地にどのような用途が必要かを都市レベルで考えることに興味が湧き、修士で都市計画を専攻しました。NY市都市計画局では街のデザインの提案やゾーニング改訂に関する住民への説明会を行なっていましたが、デザイン中心の仕事よりも政策に深く関わる仕事をしたいという思いを持ち、HR&A Advisors, Inc.に転職しました。現在は、都市政策を決定する上で住民の声をいかに反映させるかをテーマに、ボルチモアの市長選挙の前に住民のニーズを調査するサーベイを行ったり、ニューヨーク市の気候変動対策のロードマップを作ったり、と様々なプロジェクトを進めています。近頃は、これまでアメリカの人種の歴史についての理解が浅すぎたという反省から、Black Lives Matterを契機に社内で行われたレイシズムについての話し合いの会議進行役を積極的に行っています。 

留学を経て社会人としてアメリカで過ごす中で、大事だと思ったことを、以下のようにまとめてみました。 

・良いメンターを作る。私の場合、キャリアの転換期(留学、就職、転職)のすべての場面に、メンターという存在がいました。自分よりもプライベート・プロフェッショナルいずれの面でもキャリアを積んでいる方々に相談できたことはとても貴重でした。

・アメリカにどっぷり浸かる。私はアメリカでの日が浅く、かついずれは日本に戻るつもりです。ただ、アメリカで仕事をさせてもらっている以上、アメリカという社会がどのような歴史を持っていて、どのように動いているのかを知ることが、仕事の質を上げることはもちろん、私自身の経験を豊かにすることにつながると考えています。

・軌道修正を大胆に。 コロンビアでの同期、会社の同僚と話す中で、とてもフットワークが軽い人が多いことに驚かされました。学部と修士の専攻が違うことは当たり前、セクターや業種を変えるような転職も行い、男女問わずパートナーのキャリアに合わせて引っ越しをする、という事例を多数見る中で、しなやかに進路を選択することの魅力を感じています。

更に、現在留学中の奨学生から元気に活躍中であるとの報告がありました。以下は一部の紹介です。 

Harvard大学公共政策とMIT MBAのDouble Degree課程に在学中:  

都市計画に関心があり、水等のインフラを世界に届けたいという目標を持っています。留学初年度に比べると、学ぶだけでなく他の学生に教えることができるようになり、教えることで自分がわかっていなかったことが見えてきました、そしてまた教える方法も工夫できるようになりました。学校がコロナ対策をいろいろ行っていることにも助けられ、できる限りソーシャライジングしています。  

Columbia Teachers College Arts Administration修士課程在学中:  

障害がある人も参加できるような芸術活動のプログラムをつくる等、芸術活動参加者の多様性を上げることを大きな目標の一つとして持っています。アメリカでは、組織の中にいても自ら考えて新しいプログラムを創っていくといったイントラプレナー精神がある人達が数多くいることに刺激、影響を受けています。

Chicago大学ハリス公共政策大学院修士課程在学中: 

公共政策について勉強するために留学しました。修士課程の授業のほか、コンピューターサイエンス学部において機械学習の手法での電力利用量予測研究を行い、また、同キャンパスにある豊田工業大学シカゴ校で機械学習、AIを習得中です。現在は一時的に配偶者の勤務先であるノルウェーからオンラインで授業を受講しています。 

Washington大学(St. Louis) 宇宙物理PhD課程在学(2019):  

以前プリンストン大に短期留学した時米国でもっと勉強しないといけないと痛感してWashington大(St. Louis) PhD課程への留学を決意しました。留学先ではクラスメートの議論の上手さ、特に反対意見をうまく言える能力に感銘を受け、また、日本のことをよく理解していないと気づいたこともあります。  

Princeton大学在学中(学部生):  

言語の脳科学を研究していきたい、そしてそのためには物理、医学、情報理論そして言語学など広い知識が必要と考え、物理、情報理論、言語学を学ぶために留学しました。(東大医学部在籍のため、医学は東大で学ぶことができます)。AIを用いて言語学、心理学をどの程度解析できるかにも興味を持っています。  

Columbia大教育学部博士課程在学中:

これまでの研究成果を、昨年から今年にかけて、論文3本(under review)、専門書3章として執筆しました(うち2つはin progress)。そのうち一つは、COVID-19の子供達への影響に関する国際比較プロジェクトに関連するものです。COVID-19のパンデミックが教育に及ぶす影響は現在の子供達が大学に入学する頃に顕著に現れるという可能性について懸念しています。*注

University of Washington Creative Writing学部修士課程(2019):

現在はイギリスの大学でCreative writing の授業をオンラインで受講しています。イギリスとアメリカの大学では、Creative writingに対する取り組み方の違いが多少あるようで、クラスメートと相談して、イギリスでの大学のカリキュラムをより「internationally relevant」にするよう学部に提案しました。将来は、日本と中国の架け橋になりたいと思っています。*注

最後にPrinceton大学PhD課程在学中、FUTI同窓会長の羽場優紀氏が以下のように、挨拶をされました。  

プリンストン大学で行動進化学の研究を行う傍、FUTI同窓会を結成して過去現在の奨学生をつなげる一方、FUTIとは独立に、海外で留学する人々のネットワークXPLANEを設立(現在会員は約850名)、留学生をつなげるだけでなく、海外に留学を希望する人に情報を与える活動もしています。自らが奨学金を受けたことをきっかけに素晴らしい世界が開けたことの恩返しをしたいと考えます。  

12月18日の第2回目の懇親会には、奨学生10名を含む17名が参加しました。 尾島理事長が司会を務められ、次世代のリーダーを育てることはFUTIの大切なミッションであることを再強調されました。伊藤財団の遠山嘉一氏が歓迎の挨拶をされ、続いて前回参加できなかった奨学生3人からの現状報告、参加者各自の簡単な自己紹介があった後に、「グローバルリーダーとは何か、深く考えてみよう」と尾島理事長から提案がなされ、工学、理系、教育、文系等と異なる専門の奨学生から活発な意見交換がなされました。  

 Chicago大学ハリス公共政策大学院修士課程在学中

オンライン化でますます狭くなる世界の中、国内だけ・ある分野だけ、といった狭い領域で通用する「お山の大将」の居場所はなくなっている。真に世界のトップに立ち、あらゆる人と対等に堂々と交流・コラボのできる人がグローバルリーダー。「東大」をはじめとしたブランドはますます通用しなくなっている。 

Harvard大Kennedy school/MIT MBA Double Degree プログラム在学中  

日本に比べて、アメリカでは非常に多くの場面で “リーダーシップ” という言葉を耳にする。世界中から学生・研究者が来ている、極めて多様性のある大学に在籍しており、例えばイギリス人とドイツ人が議論しているグローバルな場面に参加することが頻繁にある。そのような時、様々な国の文化や状況の特徴を理解してリーダーシップを取れることが必要である。  

Columbia大学工学部博士課程在学中  

日米両方の状態を公平な目線で見て、お互いに学び理解していけるようにイニシャティブが取れる事。また、業種の違う専門家とコラボでき、学ぶことができる事。  

Princeton大 学部在学中(言語と脳科学に興味あり)  

周りの学生を見ていると、リーダーになることを避ける人が少なくない。もっと積極的にプロジェクト・リーダーなどのポジションを作る事により、リーダーシップを経験する機会を提供してはどうだろうか。  

Washington University(St. Louis)宇宙物理PhD課程在学中(Space Physics)  

変化に敏感である事、自分と違う考えの人の意見を取り入れることができる事等が重要だと思う。  

Stony Brook University-State University of New York, 物理学博士課程 在学中  

自分で切り開く力のあること。異文化・異業種間を橋渡しすることにより、innovation が生じることが多いが、日本ではしがらみもあり、新しい分野を作ったり入っていくことにはそれなりのリスクがあるので、オリジナルなトップ分野を切り開いていくのは難しい。  

  Princeton大学、進化生態学博士課程在学中 

「説得力のある変人」を目指している。人と異なる道を切り拓いていく勇気を持ちながらも、独りよがりにならず人を巻き込むことが大切だと考えている。 

予定された終了時間を超えても「グローバルリーダー」についての熱気のある議論は尽きませんでした。最後に、尾島理事長が以下のようにまとめられました。「この様に、Zoomを通して各地で活躍されている奨学生の皆さんと直接顔を見てお話しができる機会を持てる事は、大変嬉しいことです。今回は、グローバルリーダーについては内容の深い意見交換をすることができました。グローバルリーダーの条件として、意見と人格を分けて、自分と反対の意見に対してオープンであること、決断ができ、責任を持てること、諦めないこと等が挙げられると思います。また、参加者が何度も言及されたように、グローバルリーダーには異業種・異文化の専門家と交流・コラボレーションができる能力が大切だと思います。今回開催された2回の懇親会では、東大友の会が提供している奨学金が次世代のリーダーを育てる助けになっているという手応えを確信する事が出来てとても素晴らしかったと思います。」  

注:     この奨学生は2回目の懇親会にのみ参加ですが、便宜上その他の奨学生の現状報告と一緒にしてあります。  

            文責: 小出明子 (12・4懇親会)東大友の会スタッフ(12・18懇親会)

ニューズレター第24号の記事: