東大友の会支援による第11回山川健次郎レクチャーを開催

Steven Smith 教授
(イェール大学政治学部・哲学部)

2018年5月8日
2018年5月9日

第11回山川健次郎記念レクチャーが、イェール大学の政治学史・哲学の大家である Steven Smith先生をお迎えして、東大友の会支援、マクラミラン国際地域研究所後援で開催されました。今回は、5月8日(火)に東京大学駒場キャンパスで、5月9日(水)に本郷キャンパスで2回の講演会が行われました。

Steven Smith教授

Smith先生はシカゴ大学にて博士号を取得され、1984年からイェール大学で教鞭を取られ、現在は政治学部のAlfred Cowles Professorを務められています。又、これまで、政治学部の大学院専攻長、人文学の特別プログラム長、ユダヤ学・学科長、ブランフォード・カレッジのマスター(1996-2011)等を歴任されています。先生は政治哲学の権威として、宗教と政治の関係、立憲政体論について研究され、Hagel’s Critique of Liberalism (1989), Political Philosophy (2012) など多くの著書を出版され、その研究、教育活動の功績としてRalph Waldo Emerson 賞や Lex Hixton ‘63賞などを受賞されています。

Steven Smith教授と中島隆博教授

5月8日(火) 駒場での講演会は、HMC(東京大学ヒューマニティーズセンター)とUTCP(総合文化研究科・教養学部附属共生のための国際哲学研究センター)の共催で開催され、学内外から学生、研究者等19名の参加者がありました。

駒場キャンパス講演会

東京大学東洋文化研究所・超域文化科学教授、中島隆博先生からの開会の挨拶に続き、 Smith先生が “Political Philosophy and the Dark Arts” というタイトルで講演されました。この講演会では、スミス先生がDark Artsと呼んで総称する政治哲学理論について、話していただきました。Dark Artsの具体例として、国家秩序の維持のため、しばしば国家秩序維持という大義名分に基づき、権力や暴力を応用することによってその秩序が保たれるケースについて触れられました。すなわち国家安全のための警察、諜報活動、国家安全保障局の存在は、時と場合によっては、短期的悪(プライバシー侵害、被告の拷問など)を許可し、より長期的な最適性(国家秩序の維持)を模索する方向へ動きがちであることについて説明されました。時代に応じた大義名分を維持するための悪を許容するDark Artsを、どのように判断すれば良いのか。こうした判断基準を議論できるようにするためには、政治を志す者のみならず、社会の一員である個人個人への教育が必要であり、社会参画する者の政治的責任として、想像力そして最も重要な判断力 -思考し、比較検討する能力、判断し決意する強さ- を学ばなければならない。現代の哲学者はそういった政治的判断力を培う義務があるとお話されました。45分の講演の後、学生をはじめとし大多数の参加者から質問が寄せられ、1時間以上に渡り先生と参加者の間で大変活発な質疑応答、議論がなされ予定時間を超えての盛況な講演会となりました。

川出良枝教授とSteven Smith教授

5月9日(水) 本郷キャンパスでの山川健次郎記念レクチャーは、IBC(東京大学大学院法学政治学研究科附属ビジネスロー・比較法政研究センター)の第254回比較法政セミナーを兼ねて行われ、学内外から11名の参加者がありました。

本郷キャンパス講演会

法学政治学研究科(政治学史)教授の川出良枝先生から開会のご挨拶の後、Smith 先生が“Machiavelli’s Utopianism”というタイトルで講演されました。マキャベリの政治思想は現実主義であるいう理解が通説であるが、それはのちにドイツ人の歴史家Friedrich Meineckeによって作られたものであると述べられた上で、その著書「君主論」は、表面的には、君主が取るべき行動を示す手引書のように見えるが、Smith先生はそこに見られるマキャベリのユートピアニズムに着目され、そこには、イタリアでの諸公国の危機的状況にあって、卓越した徳、強さそしてカリスマ性を持つ、救済者としての君主の出現を望む思想を見出すことができるという理解を披露された。1時間にわたる講演の後、参加者から多くの質問が寄せられ、この講演会でも1時間以上に渡る活発な質疑応答が行われ、大変盛況なうちに幕を閉じました。また、講演会の後、Smith先生は、場所を移しての、若手研究者、院生との打ち解けた、「オフィスアワー」を持たれ、参加者はSmith先生を囲んでの更なる懇談や論議を行う貴重な機会を得ることができました。

*山川健次郎博士は、1875年にイェール大学を卒業した最初の日本人。帰国後、東京大学において物理学講座の初代日本人教授として教鞭を執った後、東京、京都、九州の各帝国大学の総長を務め、近代日本における高等教育の発展に尽力しました。山川健次郎記念レクチャーは、山川健次郎博士を記念し、2013年より毎年数回イェール大学から講演者を、近年ではFUTI(東大友の会)の支援をいただいて、東京大学へ招聘して開催しています。

文責: Yamakawa Kenjiro Memorial Lecture staff

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