「Go Global 東大留学フェア2018」に参加して「Appendix:東大の留学支援制度」

松下重悳

4月21日(土)、2011年以降毎年恒例のグローバルキャンパス推進本部Division for Global Campus Initiatives主催の「Go Global 東大留学フェア2018」が駒場キャンパスで開催された。東大生に海外留学・異文化体験の意義や重要性を伝えて海外留学を早期に動機づけ、学部の早い段階で海外留学を計画できるよう支援することを目的としている。その参加報告である。

出席者はおよそ550名、但し同伴の保護者や、なぜか学生欠席で単独の保護者が30-40名含まれる。保護者がなぜ出しゃばるのか年長者には理解し難いところがあるが、そういう時代だということだ。550名は盛会だが、それでも1学年3千人の学生数から見ると1割程度と見なければなるまい。複数年次の開催とは言え留学の説明会に1割しか関心が無いというのも淋しい。

丸一日8時間半に及ぶ3部構成の催しだ。午前中の75分間は、旧一高の講堂である900番教室(写真)での説明会(第1部)、午後5時間半はFUTIを含めて各支援団体がブースを連ねた個別相談会(第2部)、最後が国際交流課International Exchange Groupが扱う留学プログラムからの帰国者と留学への出発者を中心とした、軽食・ソフトドリンク提供の懇親会(第3部)だった。個別相談会と並行して別会場で出発者へのオリエンテーションが開催され、全員が懇親会に合流した。

[説明会]

最初に東大国際化のキーマンとして就任されたグローバルキャンパス推進本部国際化教育支援室長の矢口祐人教授から挨拶があった。就任後も駒場で英語と米文化の授業をされる教授は、PEAK(駒場にある英語だけで行われる4年制コース)の創設を初め、駒場の教養学部3-4年と大学院を、国際関係単科大学であるかの如く育成されたが、その指導力を全学に及ぼすべく全学の上記室長に4月に就任された。

教授が強調されたのは次の点だった。学生時代に単なる興味から米大学院に進んだが、予想に反して驚いたことに、日本で空気のように当たり前だと感じていたご自分の周囲の環境が全く当たり前ではなく、それ迄知らなかった文化や人種や考え方で非常に多様な米国を知り、ご自分を相対的に位置付けて多くを学んだ。それが今日のご自分を作った。是非皆さんも早い時期にそういう体験をして欲しいと。

次に国際交流課のスタッフから、東大生への留学支援制度の全般について説明があった。大変参考になるので、[付記]でご報告する。

例年の参加者アンケートで最も高人気の留学帰国者によるパネル討議が次に行われた。京大・JICA出身の国際交流課スタッフ紫村氏の巧妙な司会で、5人の先輩がそれぞれ面白い主張をした。パネリストは国際交流課の留学支援制度の利用者から、昨年帰国し東大に戻った人が選ばれており、FUTI応募者との共通点は限定的だった。

  • 長戸氏:Stockholm大に3か月交換留学した教育系修士1年。研究者志望。留学は念頭に無かったが、軽食に惹かれて芝生上の国際ランチで外人の友人ができ、留学・外国に興味を持った。留学目的を問うとハードルが高くなるから、まず気軽に日本を出ることを勧めると。
  • 鎌田氏:Illinois大UC校に9か月交換留学した教養学部国際関係4年。外資コンサル内定。American Football部に入れ込んでいたが、監督からアメフトに英語は大事と言われ勉強した。留学は自分のやりたいことを犠牲にするのではなく利用して行くもの。Boston Forum(留学者と企業の出会い)で就活が可能。
  • 井下さん:Univ of the Philippinesに10か月交換留学した農学系修士1年。途上国の農家に貢献志望。初めから留学に興味があり短期留学したが、物足りなくて10か月の留学。比島は比較的安全で留学費用が安い。2年での申し込みで推薦状を頼む先生に困ったので、これぞという先生に顔を売る努力をした。
  • 葛城氏:香港大に8か月交換留学した法学部3年。国際弁護士志望。開成高から東大法という定番路線に反発し、東大の世界ランクも下がって来たから、外国有名校を目指したが失敗。翌年東大入学。入学してから東大のレベルが高いことを認識した。中国+英語で香港大を選択。外から日本の価値を再発見した。
  • 熊谷さん:過去1年間に短期留学ばかりSeoul、台湾、米国と3回行った教養学部2年。進路は法学部または教養学部で迷っている。高校時代に1年間米国留学をした。今は米国への長期留学を検討中。

[個別相談会]

午後いっぱいはブース方式の個別相談会だった。24のブースが設えられたうちの1つがFUTIのブース(写真)だ。初心者や一般的な相談は国際交流課が数人並行で引き受け「その話はFUTIに聞きなさい」とか誘導してくれる。または隣のブースでは海外から東大に来た留学生と留学経験のある東大生が相談に当たった。懐かしい日本学生支援機構(昔奨学金を借りた。長年返済に苦労したが)や、お世話になったFulbright委員会(Fulbright氏が創設した資産の運用では足りなくなり、今は日米両政府や企業から資金を得ていると)もブースを出している。英仏独の協会や英仏韓の大学代表も居る。FUTIの隣のブースはSchwarzman Scholarsという団体で、Schwarzman氏いう米人が中国との交流のために、精華大で1年で修士をとる丸抱えのプログラムを提供していた。中国国内旅行やPC・スマホまで提供してくれるプログラムには毎年全世界から4千人の応募があり、140名を選んでいるという。絶好の機会なのに相談者は少なかった。

FUTIのブースには私も居たが、有難いことに渉外部門の佐藤淳氏と加瀬葉月さんが主として対応して下さった。一番混んだブースはFUTIとGEfILだった気がする。FUTIには新記録の62名が相談に訪れた。多くの学生は、「FUTIって何?」「返済条件は?」から始まったが、中にはFUTIのことは予習してきて、真剣に選考の詳細などを聞きたがった学生も居た。FUTIにとっては大事なPR活動だ。

数件だったが親子連れや、なぜか子が居なくて保護者だけが相談に来た。定形応答に飽いてそのお一人に「えっ、お母様ですか、博士課程の方かと思いました。」と言ってみた。「なぜ子が来ないのか」という気持が半分、お世辞的冗談が半分だ。今春息子さんが東大に入ったばかりで喜びに溢れておられ(大変な親孝行だ)、是非Harvardに留学させたいのだがどうしたらよいかと問われた。月並みな助言の他に、米国には一流ブランド校は多数あるし、これからは学校名よりも実力だから、息子さんの人生計画から目標を選ばせるように言った。典型的な親御さんの心理を学んだと感じた。

相談者の多くが初心者ということもあり、どうしたら留学できるかに関心が高かった。東大の留学支援制度はまさにそれに真正面から応えており素晴らしい。FUTIの役割は、それが金額的に不足する部分と、制度的に及び難い部分、にあることを再認識した。後者の例では、①学生固有内容の留学、②卒業後東大を離れて留学、③既卒者、④博士課程、⑤目的意識、リーダーシップ、推薦状、など主観評価も成績同様に重視、⑥優秀者を特別に支援、⑦2年目を支援、⑧東大に留学する米大生の支援、など多数の点に思い至る。

[懇親会]

国際交流課の扱う留学プログラムで今年留学に出る東大生を中心に、東大への留学生や留学経験者、個別説明会のブース担当者、東大の国際関係者などで、大規模なソフトドリンクでの立食パーティーが行われた。何度も私の出席確認があったので不思議に思っていたが、最年長の私が乾杯の音頭をとるように言われた。ジョークが一部にしかウケなかったのはまだ修行不足だ。

米国伊藤財団-FUTI奨学金の関係で面接した2、3の学生に再会した。もっと居たはずだが、騒然とした大人数の中では探し方が分からなかった。

国別の留学予定者、既留学者、スタッフなど色分けされた名札の人に会い、手許のBingo用紙の該当の色に記入して列を完成させるBingoが素晴らしいと思った。突然話しかける口実になるから、同じ国や同じ大学に留学する人の顔つなぎや、人脈を広げるパーティーには有効だ。あまり深い話はできなかったが、どんな学生が留学するのか感触は掴めた。

青雲の志を持って出かける留学生に幸あれと願った。

以上

付記:東大の留学支援制度

FUTIが対象としている留学(送り出し)は自由型が多いが、東大国際交流課は大学公募の定形型の留学制度を充実させており、学内手続きだけで済むものや、学内選考を通れば海外側はほぼFree Passの場合が多い。また留学の多くは(丸抱えではないものの)奨学金がほぼ自動的に付いて来る。奨学金の源資は日本学生支援機構=JASSOと、東大社会連携本部渉外部門(旧渉外本部)が企業から集めた寄付による。企業は選考を東大に一任し、学内選考で合格した奨学生は国際交流課から「あなたはJASSO」「あなたはXX社の奨学金」と割り振られる。FUTIは奨学生と金額の腹案を持って国際交流課と相談し、国際交流課経由の奨学金がある場合には調整する。

このような(恐らく日本一充実した)東大の留学支援制度(送り出し)が説明会で解説された。以下(F)はFUTIが大いに関係している部分、(N)はあまり関与していない部分である。

東大の留学支援制度を大学公募と、学生個人が自分で開拓・応募する個人応募(F)に分けると、後者はFUTIが活躍する主舞台であるが、以下には言及しない。国際交流課が推進する大学公募は、3か月を境に長期留学と短期留学に分けている。

長期留学には

  • 留学先との全学的・双務的な交換協定に基づき、東大の授業料を納めていれば留学先の授業料は不要とか、単位の互換が容易とか、奨学金付とかの特典がある「全学交換留学」(F)と、
  • 上記①に準じるが、典型的には授業料相殺の合意が採り難い場合などの別契約に基づく「長期派遣プログラム」(F)とがある。

上記①②は諸条件の差はあるが、考え方は同じであり、東大は同様に扱っている。また

  • 全学の協定には至っていないが、東大と留学先の特定の学部・部門間で上記に準じた契約ができている「部門間交換留学」(「学部・研究科 交換留学」)(F) がある。

いずれも東大で学内選考があり、その合格後に留学先での選考もあるが、多くの場合では拒否される例は稀だそうだから、実質的にはほぼ学内選考で決まる。またいずれも敷かれたレールに乗る形なので、学生が自ら開拓する必要はなく、留学を志す学生にとって大変親切な支援である。

具体的には、米国の全学交換留学先は今の所Yale、Illinois-UC、Johns Hopkins、Swarthmore、Northeastern、Princeton、Univ of Washington、の8校である。部門間交換留学では、Pennsylvania、Michigan、Chicago、Cornell、MIT、UC、NYU、Texas、Columbiaなどがある。例えばColumbiaのSIPA=School of International and Public Affairsと東大公共政策大学院の間には、修士課程の学生を交換して両校の修士を授与する協定がある。

長期派遣プログラムでは、UCB、UCDがあり、授業料がタダにならぬ他は出来るだけ交換留学に準じて行われている。米国伊藤財団-FUTI奨学金の応募で上記の各大学への留学が多いのは、これら東大の留学支援制度と深く関係している。米国への留学は高くつくので、支援制度の奨学金では不足する場合に米国伊藤財団-FUTI奨学金が役立っている。

短期留学は、主として夏休み・冬休みに行われる留学の入門コースである。

①全学または部門間の短期派遣プログラム(F)と、②国際研修(N)、③体験活動プログラム(N)がある。①短期派遣プログラムでは、世界11大学が夏季に学生を短期に交換するIARU-GSP=Global Summer Program(F)と、全学または部門間の協定校で開催される夏季プログラム(F)と冬季プログラム(N)、また語学プログラム(N)などがある。留学先の学生との交流を重視するプログラム(F)と、東大または2、3の大学からの留学生を中心に行われるプログラム(N)もある。

②国際研修(N)は駒場で独自に開催している初心者向けのプログラムで、東大生が外国に出向いて現地の学生と一緒に講義や実習などの研修を行ったり、逆に海外から来た研修生と東大生が一緒になって日本で研修を行う。

③体験活動プログラム(N)は、海外または国内で1-2週間で大学では学び難い内容を体験するプログラムである。米国での例を挙げれば、Harvard医学部研究室の訪問と討議、米国企業訪問、農業体験、東大OBの訪問と討議など7-8件のプログラムがある。

留学そのものではないが、東大生の国際化を推進するプロジェクトとして、①GEfIL(F)と、②2018年4月から1年生を対象に開始された国際総合力認定制度=Go Global Gateway(N)がある。

①GEfIL=Global Education for Innovation and Leadershipでは、全学からの希望者を対象に2年生の秋に100名を選抜し、通常の学業に加えて土曜を中心に英語の討議式授業と実習を重ね、国際的なリーダを育成する。全学の3%を選抜して強化教育を行うので、国際化が進んだ資質のよい学生が育っている。卒業までに2回の海外夏季留学が必修になっており、企業寄付によるGEfIL独自の奨学金を出しているが、米国留学の場合にFUTI奨学金でも重ねて支援している。

②国際総合力認定制度(N)では、「世界の多様な人々と共に生き、共に働く力」を国際総合力と定義し、そのために役立つ4つの活動のうち3つ以上に取り組んだ実績を登録して認定証を貰う。その4つとは、(i) 2つの外国語の履修と第3外国語の推奨。 (ii) 授業・オンライン学習のMOOC・研究・実習などで国際化に資するものを履修。(iii) 長短期の留学経験。(iv) 母語以外の講演会やイベントなどに参加したり、国際交流イベントの運営など。このうち(i)の「2つの外国語の履修」というのは、この制度が無くても学内進学の必須条件だから避けて通れない。(iii) は多少努力を要するが、あとは気を付けて行けば難しい話ではない。国際化のGatewayという位置付けで学生に方向性と初速を与えるための制度であろう。

*松下重悳氏は東大友の会スカラシップ委員会の委員長。


ニューズレター第19号の記事: