羽場優紀
プリンストン大学進化生態学部博士課程
FUTI Global Leadership Award 2015 受賞者
2015年春、私は悩んでいた。東京大学の学部卒業を4月に控え、手元に残った進路は二つ。東京大学の大学院進学か、米国はアイビーリーグのコロンビア大学大学院への進学。コロンビア大学への進学を強く希望していたが、学費など金銭的な不安があった。思い悩んだ私の背中を押したのがFUTIの奨学金、Global Leadership Awardの合格通知だった。この奨学金には留学直前の夏期の語学留学や米国滞在への支援をしていただき、大学院を始めるにあたって英語や生活面で大変助けられた。
この短いエッセイでは、FUTIに支援を頂いてから二年間、コロンビア大学で想像もできなかった試練を乗り越え、最終的にプリンストン大、コロンビア大、ハーバード大などの学部から各学年一名の特待生に選ばれて (ハーバード大では三名のうちの一人)博士課程合格をいただくまでの道のりを簡単に報告させていただく。
2015年秋。Global Leadership Awardに後押しされコロンビア大学に来たはいいものの、語学も勉強もついて行くのが精一杯、さらに学費や生活費を稼ぐためにティーチングアシスタント(TA)やリサーチアシスタント(RA)を探す日々で、今考えてもよく生きていたなというような精神的にギリギリの生活を送っていた。実を言えば、東大では体育会のサッカー部に入ってサッカー漬けの日々で、私は決して優等生というわけではなかった。最後の一年でなんとか巻き返した生物の基礎もアメリカのスパルタ授業の前では穴だらけという状況で、よくコロンビア大学も私をとってくれたと思う。ただ、このような逆境でこそ燃えるのはサッカーで培った負けず嫌い気質であった。空っぽだった頭はスポンジのように知識を吸収し、死に物狂いで勉強した成果が二学期目から少しずつ顕れ始める。まずはTA、次はRAと仕事を獲得、指導教官以外の教授からも信頼を勝ち取るまでに至った。二年間の集大成である修士論文は高い評価をいただき、アメリカ人の同級生を抑えて学部から最優秀修士論文賞を頂いた。
修士論文でやっていた研究が非常に面白かったことや、もっと腰を据えて大きなテーマに取り組みたいという意欲がわき、次第にアメリカの博士課程(PhD課程と呼ばれる)に進学したいと強く希望するようになった。実を言うと2015年にも名門校のPhD課程受験に挑戦していたのだが、サッカーしか実績のなかった私は軒並み不合格を頂いていたのであった。同じ轍は踏まぬと、今回は早い段階から希望する教授にアポをとり自分の熱意を伝え、アメリカ中の教授たちと議論する中で自分の興味も研ぎ澄まされていった。
2016年末、満を持して博士課程に出願。書類だけでなくその後の三日から五日に及ぶ各大学の面接試験でも大変に評価していただき、第一志望のプリンストン大をはじめ、ハーバード大、コロンビア大などから奨学金付きで合格を頂いた(学費免除と月三十万円以上の奨学金)。二年前のリベンジを果たしたような気持ちで誇らしかったし、奨学金を頂いたFUTIや支えてくれた友人家族へ少しでも結果で恩返しできてよかったと思う。NYでの銀杏会総会で報告させて頂いた際には、たくさんの人にお祝いの言葉をかけて頂いた。本当にFUTIには頭が上がらない。
「人間の思考は、なぜ生まれ、どのような仕組みで動いているのだろう?」これが私が生涯をかけて研究したいと思っているテーマである。一見哲学的にも聞こえるこの問いは、現在広く生物学の枠組みの中で研究されている魅力的なテーマだ。思考が’なぜ’生まれたかを理解するには生命の歴史を紐解く進化学が有効だし、 思考が’どのように’発現するか考えるには脳科学、分子生物学といった学問が必須である。既存の学問の壁を飛び越えた研究をする以上、自分の興味を狭く決めるつもりはないし、アメリカや日本のみならず世界中の研究者と協働しながら楽しんで進めて行くつもりだ。ここからは学生というよりはいち研究者として、ワクワクするような発見をしていきたい。
2017年九月、プリンストン大学で博士課程の授業がスタートした。憧れの地で勉強をできる喜びに浸りつつ、世界中から集まった優秀な同僚に日々刺激をもらっている。海外大学院留学は未だ多くに知られている選択肢とは言えないし、金銭的不安もつきまとう。それでもFUTIのように夢見る学生にチャンスを与えてくれる団体の力を借りれば可能になることもたくさんあるはずだ。自分のやりたいことが海の向こうにあると感じるなら、飛び出してみることを考えてもいいと思う。
最後に改めて、大学院留学のきっかけを、そしてこのような報告の機会を頂いたFUTIに感謝をさせて頂きたいと思う。奨学金だけでなく、NY銀杏会などのコミュニティにはコロンビア在学中苦しい時に支えて頂いた。本当に有難う御座いました。
著者:羽場優紀。「この記事を読んで、大学留学に興味がある方は、までご連絡ください」と言われています。