スタンフォード大学教授で桑港赤門会の会員である星岳雄氏とシカゴ大学教授アニル・K・カシャップ氏の共著『何が経済成長を止めたのか――再生への処方箋』(日本経済新聞出版社、207ページ、ISBN978-4-532-35547-0)が2013年1月に出版された。本書は、両著者が総合研究開発機構(NIRA)の研究報告書として発表した二つの論文「何が日本の経済成長を止めたのか?」(2011年1月)と「日本再生のための処方箋」(2012年6月)をベースにしている。
まえがきの中で著者は「日本経済の停滞は単なる景気の悪化ではなく、求められるのは通常の景気刺激策ではないということである。日本経済がいまだに停滞しているのは、震災の影響でも、世界的金融危機の影響でもない。小泉内閣が日本経済を不安定にしたわけでもないし、さらにいえばバブルの崩壊すら日本経済沈滞の根本的原因とはいえない。」と述べる。
リーマン・ブラザーズ破綻の直前、2008年9月12日のウォール・ストリート・ジャーナル紙に著者らは「日本改革のための設計図」(“A Blueprint for Reforming Japan”)と題する論説を寄稿した。その中で日本政府・日銀がなすべき政策を5つ挙げた。第一に競争力を失った企業(著者らは「ゾンビ企業(zombie firms)」と呼ぶ)を保護する政策をやめる。第二に農業補助金を削減する。第三に納税者番号を導入する。第四に移民政策の改革。第五に金融政策を改善してデフレの脱却を目指す。これらの多くは本書の提言にも受け継がれている。
本書は長期的な視野から日本経済減速の要因を考え、日本経済を再び成長させるために必要な方策を提示する。
本書の最後の9ページは東大経済学部教授、総合開発研究機構(NIRA)理事長伊藤元重氏の解説「失われた20年からの教訓」である。伊藤氏は著者等の著者等の「良質な政策分析」を高く評価し、著者等の日本経済再生への処方箋と彼らの信念に全面的に賛同する。しかし現実にはそれを実現するのが政治的に簡単ではないことだ、と伊藤氏は指摘する。残念ながら、日本の経済学者は国民、政治家、官僚を啓蒙し説得せねばならぬ学者としての重要な勤めを果たしていない、と伊藤氏は日本の学者(多分彼自身を含めて)の努力不足を指摘する。
目次
まえがき
- 何が日本の経済成長をとめたのか
- 経済改革の成功と挫折―小泉内閣の検証
- 日本再生のための処方箋
注
参考文献
解説 失われた20年からの教訓 伊藤元重