伊藤隆敏教授講演「日本企業の建値通貨選択と為替リスク管理Managing Currency Risk:How Japanese Firms Choose Invoicing Currency」(ニューヨーク)

2020年最初のさつき会主催の講演会として1月30日、コロンビア大学教授(兼)政策研究大学院大学(夏季)特別教授でおられる伊藤隆敏教授をお迎えしました。東大友の会とニューヨーク銀杏会の共催でした。

この講演・懇親会は、伊藤教授が鯉渕賢中央大学教授、佐藤清隆横浜国立大学教授、清水順子学習院大学教授と共著された「Managing Currency Risk」(出版社:Edward Elgar)の、第62回日経・経済図書文化賞受賞を記念するかたちで開かれました。同書は、伊藤教授が2015年まで研究員として在籍されていた、独立行政法人経済産業研究所の研究プロジェクトにおける研究成果をまとめたものであり、「なぜ日本企業の輸出入取引において円建てが広がらないのか」という疑問について、企業へのインタビューとアンケート調査という、経済学上「型破り」な手法を用いて、実証分析したものです。

平日夜にもかかわらず、NY銀杏会メンバーに、一橋大学の卒業生会である如水会メンバーも加わり、金融、商社、製造メーカー、政府関係者の実務家を中心に20名を超える参加者が集まりました。

まず最初に伊藤教授が、本研究の出発点として、従前からの「円の国際化の試み」と相反する「円建て取引が広がらない」実情について言及され、これを分析するには、通常の経済学のアプローチである公表データ(財務省の貿易統計を含む)のみでは、(産業別等の)詳細が無く不十分であったため、企業へのインタビューとアンケート調査を広く行うことにした経緯を説明されました。

次に、これら企業からの回答結果と円為替の歴史的推移をバックボーンに、

  • 取引対象商品の消費者市場における通貨が強い決定要因となっていること
  • 大企業は海外子会社に通貨リスクを負わせるのではなく、本社で一括してリスクを管理する傾向にあること
  • 取引決済通貨の決定に関する交渉力は、必ずしも大企業にある訳ではなく、むしろ世界市場シェアの高い中小企業の方が、円建て輸出契約を結べていること
  • 米国のみならずアジア市場において現地通貨取引が増加している背景として、現地生産の増加が挙げられること等

との分析結果が伊藤教授より示され、参加者の多くから、これらのポイントを裏付ける実務経験が共有され、次いで日本政府の通貨戦略、通貨リスクを商品価格に直ぐに反映出来ず「円安頼み」になりがちな日本の輸出産業構造、株主利益追求が不十分である日本の企業カルチャー、それに伴う日本企業の競争力の減退、中国人民元の将来等、議論は発展し、極めて活発に行われました。

最後にNY銀杏会の副会長である浅木氏より、伊藤教授へのお礼と、「力を合わせて日本の競争力を強くしていきましょう。」との締めくくりがあり、参加者一同、この講演会、銀杏会での出会いを大切にしながら、2020年の始まりの気持ちを新たにました。

文責:伊喜利佳業