Hiroyuki Takaba, Ph.D March 3, 2026
The Department of Immunology
Business Trip Report; Gordon Research Conference: MHC-Restricted Antigen Processing and Presentation (February 8-13)
2月の底冷えする京都、知恩院。創発的支援事業(FOREST)の班会議で得た議論の熱も冷めやらぬまま、成田から米国テキサス州ヒューストンへと飛んだ。ガルベストンで開かれるゴードン会議(Gordon Research Conference;MHC-Restricted Antigen Processing and Presentation)へ参加するためである。胸腺で形成される制御性T細胞の亜集団が末梢へ移行し、末梢組織の構造的・空間的文脈そのものが免疫記憶の基盤(免疫エングラム)として機能するのではないか。この仮説と検証データが、世界最前線の研究者たちにどのように受け止められるのか。期待と心地よい緊張感が入り交じる渡米の幕開けであった。
およそ1週間にわたるガルベストンでの日々は、朝から晩まで最先端のサイエンスに没入した極めて刺激的な時間だった。この会議における大きな収穫の一つは、マウントサイナイ医科大学のDiego Chowell博士との出会いである。学会会場での議論は瞬く間に深まり、その後の研究室訪問、さらには具体的な共同研究の構想へと直結した。数理統計学と免疫学という異なるバックグラウンドを持つ研究者とのディスカッションは、自身の研究の学際性を拡張させるものであり、国際会議における直接のネットワーキングが研究の次の展開を加速し得ることを改めて実感した。
会議後は、東海岸のコロンビア大学、ニューヨーク大学(NYU)、そしてニューヘイブンのイェール大学へと舞台を移し、複数の研究室を歴訪した。コロンビア大学では、組織常在性記憶T細胞研究を牽引するDonna Farber博士、臓器移植免疫の大家であるMegan Sykes博士、COVID-19のウイルス学研究を進めるSho Iketani博士、そして皮膚におけるT細胞研究を進める増田和哉博士らと対面で議論し、免疫寛容や神経免疫学の今後の方向性について意見交換を行った。さらに、イェール大学のDavid Schatz博士、Richard Flavell博士、Peter Cresswell博士、ならびにNYUのJuan Lafaille博士とも一対一で対話する機会を得て、概念の位置づけや検証戦略、関連領域との接続の仕方について具体的な助言とフィードバックを受けた。
これらの議論を通じて、「免疫エングラム」という構想は単なるアイデアの提示にとどまらず、既存の免疫記憶・組織免疫・抗原提示研究を横断して整理し得る枠組みとして、より明確な輪郭を得た。論文の行間からは伝わりにくい論点を対面で言語化し、相手の反応を得ながら磨き上げるプロセスは、仮説の可検証性を高めるうえで極めて有効であった。現在、これらの議論を統合した総説論文について、Nat Rev Immunologyの編集部より執筆依頼を得て、掲載に向け準備を進めている。
この長く濃密な米国滞在を通じて、サイエンスの成果と同等に強く胸に刻まれたことがある。それは、世代や海を越えて支えてくださる恩師と、第一線を走る日本人研究者ネットワークの計り知れない価値である。今回の渡米にあたっては、東京大学医学系研究科免疫学教室名誉教授である谷口維紹先生から力強い激励を受け、実際にイェール大学訪問に際して多くの研究者をご紹介いただいた。また、テキサスでのUT Southwestern(UTSW)訪問をはじめ各地での滞在においては、大学院時代の恩師である坂野仁先生からのご縁で出会えた坂野仁美博士、尾畑佑樹博士(UTSW)、そして、免疫学教室同窓会先輩の辻守哉博士(コロンビア大学)、東大友の会(FUTI)理事の小出昌平博士(NYU)といった諸先生方に、研究面のみならず現地での移動や滞在面でも手厚いサポートと温かい励ましをいただいた。異国の地で新しい概念を提示し、議論を積み上げていく過程において、こうした恩師やコミュニティの存在は大きな支えとなった。私自身も今後、このネットワークに恩返しをし、次世代の日本人研究者たちへとこの絆を繋いでいきたい。
東海岸を襲う雪嵐を間一髪で避けて深夜便で帰国し、日本の空気は春のように暖かかった。強烈な時差ボケと疲労の中、朝8時開店の牛丼を待ちきれず、コンビニエンスストアで買ったヨーグルトとパンで帰国を祝った朝の情景は、どこか泥臭く現実的である。しかし、私の胸の中には、世界各地の研究者と交わした生の言葉と、日本人ネットワークの絆がぎっしりと詰まっている。この滞在で得た議論とネットワークを基盤に、本学の研究力強化と国際共同研究の推進、ならびに新概念の実証に向けた研究展開へと大いに還元していきたい。

