既卒者の経歴発展を支援

FUTI奨学金委員長 松下重悳

米国伊藤財団-FUTI奨学金は、周知の(株)セブン&アイ・ホールディングス名誉会長の伊藤雅俊氏が理事長の米国伊藤財団の資金提供により、FUTIが運営する奨学金で、青雲の志が高い東大生主体の毎年十名程度に2016年以来供与されています。応募資格が多岐にわたるため、幾つかのカテゴリーごとに応募を受け付けていますが、その一つに過年度卒業者=既卒者にも門戸を開いていることが一つの特徴になっています。既卒者の応募者も、そこから採択に至った奨学生も、個性的で他のカテゴリーとは一味異なります。特に近年2019−2021年には応募者が質量共に伸びて激戦区の様相を呈して来ました。この既卒者のカテゴリーについてご紹介しましょう。

2016年から2021年までの6年間に数十名の応募を頂いた中から、十数名の奨学生を採択しています。半分は学部卒、半分は修士修了のあと留学を志しています。修士修了の奨学生の半数は東大以外で学部を卒業しており、東大が大学院大学として機能していることが分かります。

奨学生の内、就職の経験がない人は1/3です。特に近年2019−2021年については、ほぼ全員が一度就職し数年の経験を経て、志も新たに留学を目指しています。こういう上昇志向を応援できることは本奨学金の特徴と言えます。学部卒から奨学生採択までの年数で見ると、このカテゴリーの奨学生の1/3は大学院と就職の年数を加えて9−10年、1/3は5−8年経過しています。残り1/3は就職経験はなく、大学院で1−4年経過した人達で、それぞれ目標が定まり留学でその分野の蘊奥を極めようとしています。

就職経験者の中では、国際機関で世界的に活躍し、あるいはコンサルタントとして官庁の国際活動を支援した人や、劇場経営に従事した人が、それぞれ大きな活躍はできたけれども、更に良い仕事をするには専門知識・経験を積む必要があることを感じて留学しています。あるいは技官として官庁に入ったが、政治行政を勉強したくて(公務員の派遣制度ではなく自費で)留学した人もいます。なかなかの勇気だと思うのですが、大手商社で世界で活躍してきた中で発展途上国の支援が天命と感じて、大手商社を辞し経営を学ぶ留学を選択した人もいます。

法学部出身者は、官庁や企業の事務系幹部への経歴を積む人が多いですが、このカテゴリーの応募者の中にはそういう人は少なくて、弁護士資格をとり弁護士事務所で活躍して来たが、企業を支援するだけでは限界があるので、自分で起業したいとか、国際契約のあり方を決める立場で貢献したいとか、米国弁護士の資格をとって国際的な折衝で活躍したいとか、様々な志の人がいます。法律事務所の財政支援に頼れる場合もあるのですが、米国の弁護士教育への留学ニーズが高く授業料が高騰しているので、部分的な支援が必要な場合が多いです。

このカテゴリーの難しい点が一つ2021年に初めて出現しました。社会に出て年数が経ち、社会的地位や財政的な力も或る程度確立したはずの人や、確立している時期だが本人にはまだ不満が残る人が、急に少人数ながら応募して来ました。生涯勉強が必要な世の中ですから留学も大変結構ですし、または留学で人生の転機を得たい気持は理解できますが、本奨学金の役目かどうかは本奨学金の誕生の趣旨に照らして慎重に考えねばなりません。やはりこれから社会的地位を創り出していく人を優先すべきとの立場から、奨学金委員長名で社会的地位に相応しい丁寧なお断り状、つまり不合格通知を差し上げました。

因みに本奨学金の応募では、他奨学金への応募や企業からの支援、並びに自己資金からの投入額を含めて、年間の資金計画を提出して貰っています。ありがちな脚色部分は差し引いて奨学金の必要度は推察できます。ただ必要経費が年々高騰していて、企業等のスポンサーから数百万円の支援があっても授業料だけしか賄えない場面も珍しくありません。大学によっては留学生の本人・家族の預金残高に奨学金支給証明書を加えて、或る額以上にならないと入学許可が出ない大学もあります。そのような場合には本奨学金からの部分支援であっても、大いに喜ばれます。

既卒者のカテゴリーは、応募者の人生に最も深く関わります。悩みが多い分だけやり甲斐もあり、既卒者の経歴発展を支援することを通じて、資金を有効に活用して世に最も貢献できる選択肢を選べる好機として、ボランティア精神で頑張っている次第です。

注:この原稿は、松下重悳氏が寄稿されました。