古井貞熙教授の講演と懇親会: 「AI時代の大学と社会—アメリカでの学長経験から」

10月9日に東工大名誉教授・栄誉教授、国立情報学研究所・研究総主幹でおられる古井貞熙氏(東大OB) を囲む講演・懇親会が開催されました。主催はさつき会アメリカ、シカゴ赤門会、東大友の会、そして共催はニューヨーク銀杏会、SF赤門会、FUTI Alumni Associationでした。アメリカ、日本から様々なバックグラウンドを持つ30余名が参加して、大盛況でした。

国際的に著名な音声認識研究者でおられる古井先生は、2013から2019年の間TTIC(Toyota Technological Institute at Chicago)の学長を務められました。今回のご講演では、最近出版された著書、『AI時代の大学と社会—アメリカでの学長経験から』を中心に、国際化を目指している日本の大学や社会がこれからのAI時代にどう対処するべきか、そして何が出来るのかをスライドを用いてご自身の学長経験に基づいたお話をして下さいました。ご講演の内容は、「評価、専門性、自律性」の3つのキーワードを中心に多岐に渡り、TTIC設立の理念と紹介、アメリカの大学の博士課程、アメリカの大学運営と組織、日本の大学改革、AIのこれからの進歩と社会等について語られました。

参加者の多くが深い関心を持ち、また期待している「これからの日本の大学教育」については、以下のように述べられました。

講演に続いた質疑応答では、東大藤井総長、津田副学長をはじめとして日本、アメリカ(Princeton, Yale, Columbia, State University of NY at Stony Brook 等)で大学教育の運営に直接経験のある方々が多数参加されたこともあり, 内容の深い質問・意見交換が行われました。制限時間を超える程の活発かつ興味深い質疑応答が続きました。以下はその一部です。

(参加者)最近ノーベル賞を受賞された真鍋先生の例等を始めとして、世界で活躍している日本で教育を受けた方々は結構多いが、逆に世界から日本へ行きたいという学生等の要望は未だに多くはないのが現状です。日本の強みがあり、世界からの魅力的であるハードウェアを共同で作るというようなことが、先ずは良いかもしれないと思います。

(古井)やはり日本の特定の先生の所で研究がしたいというような、人的な関心と認識がもっと増えることが必要です。日本の研究者について、どのように魅力的な研究と環境なのかということ等も含めて、全般的に他の国から見えにくいのではないかと思います。

(参加者)日本の大学の現状や様々な解決しなければならない問題点等も踏まえた上で、先ず始めることとして最も効率的で現実的に解決できると思われる課題は何でしょうか?

(古井)日本の先生方は、知り合いとは研究や連携をするが、そうでない方に頭を下げてでも連携するのが、特に海外との間では苦手なのではないでしょうか?その辺の意識を変えていくことはどうでしょうか?

(参加者レスポンス1)確かに日本の先生方は、日常的に海外の先生方と積極的に連携することが得意とは言えないと思われますので、逆に海外に拠点を作ってはどうかと東大では提案しています。

(参加者レスポンス2)東大の先生が海外で広く活躍されている例( “best practices” )をもっと広く日本及び海外で認知されるようにできたら、若手の方々にも刺激にもなると思います。

(参加者)現在大学院生である立場から感じることは、日本のとても優秀な先輩方の多くが博士課程へ行かずに就職してしまっていることです。こちらでは若手の研究者が積極的かつ素晴らしい仕事をしているのは、どのような違いによるのでしょうか?

(古井)博士課程や研究等において、若い人達にチャンスを与えることが国や社会にとって将来への投資であるという認識が、日本ではまだ行きわたっていないことが根底にある問題だと思います。

(参加者)シカゴ大学での経験などからも、財源の大きさの違いを痛感しています。シカゴ大学では、強力にファンドレイジングを行った結果、若手の研究者に一億円位の研究費が支給できる体制が確立されています。財源を確保するには日本ではどのような方法が考えられますか?

(古井)アメリカと同じ様な規模のファンドを得るのはとても難しい問題です。いきなり大きなファンドレイジングを行うのは困難だと思われますが、可能な範囲でまた継続的な努力で徐々に成果を上げていく必要があると思います。その為には国の理解と協力が必要であると考えられます。

最後に東大友の会理事長の尾島先生が、閉会の言葉を以下のように述べられました。

とても興味深いお話をありがとうございました。私自身はアメリカの大学での経験しかないので日本の大学経営、運営の問題点、課題を知ることが出来て有益でした。これからのグローバルな連携には、英語が世界共通言語なので「バイリンガル」であることが要求されます。日本でもこの点を強化することが重要な課題ではないかと考えます。バイリンガルの問題に関しては、AIによる自動翻訳が進むとツールとしてある程度障壁を低くする事が出来るかもしれませんが、やはり英語で考え即対応が出来る能力を身に付ける事が必須です。ですから、大学院、大学での講義を英語で行う必要性があると思います。また、AI の急速な進歩と利用拡大の中で日米の大学がどの様に対応して行くのかを考えさせられます。本日は誠に有難うございました。

さらに古井先生は「お蔭様で、藤井総長、津田副学長にもご参加いただき、多くの皆様に活発に議論していただき、私にとっても、有意義な機会となりました」と述べられ、若手研究者へのメッセージとして、「現在はコロナで対面が難しい状況でありますが、とにかく友達を沢山作り、お互いに協力していける輪をグローバルに作り広げていくことが重要です」と暖かい励ましのお言葉を下さいました。

文責:Event team