伊藤財団—FUTI奨学生オンライン懇談会

東大友の会奨学生とのオンライン懇談会Ito Foundation U.S.A.-FUTI Scholarshipの2021年度の奨学生と東大友の会、そして伊藤財団との交流を目的とした懇談会が2021年12月4日(土)Zoomにて行われました。現奨学生11人のうち10人が参加し、東大友の会スカラシップ委員会委員、桑間雄一郎副理事長・財務担当理事、伊藤財団の遠山嘉一氏と山本朝子氏、そしてFUTI Alumni Associationの羽場優紀会長が参加しました。

東大友の会スカラシップ委員会会長の松下重悳氏と尾島巌「東大友の会」理事長・CEOが開会挨拶で、東京とアメリカ各地からの参加者を紹介し、参加への謝辞を述べました。奨学生の報告プレゼンテーション開始前に、伊藤財団の遠山嘉一氏が伊藤財団の歴史を紹介されました。伊藤財団の創立者、並びに(株)セブン&アイ・ホールディングスの創立者、名誉会長である伊藤雅俊氏は、若い時に得た学資援助がその後の人生の推進力となったことに対する感謝の気持ちを込めて、前途有望な学生を支援するために伊藤謝恩育英財団と米国伊藤財団を創立したと語りました。

続いて懇談会のメインイベントである奨学生による全て英語での報告プレゼンテーションがありました。下記はプレゼンテーションの要点をまとめたものです。

現在Harvard University Graduate School of Design (GSD)にて修士課程在学中の畑岡愛佳氏は、東大(工学部都市工学科卒)在学中、主に都市の公共空間や水辺空間を研究しました。日本を発つ前、尊敬するランドスケープアーキテクトと話す機会があり、その中でのデザインにおける”かたち”に関する言及が印象に残ったそうです。以来、GSDにて”かたち”の意味や”かたち”そのものを追究しているとのことです。写真やダイアグラムを用いて物質性やモニュメンタリティをテーマにしたプロジェクトを説明しました。

池洲諒氏は2021年9月よりUCLA School of Public Healthの修士課程に在籍し疫学を学んでいます。2016年に東大医学部を卒業し、2年間の臨床研修を終えた後、公衆衛生に興味を持ち東大大学院の博士課程に進学しました。博士課程在籍中に、公衆衛生の研究が盛んな米国での研鑽が必要と考え、東大大学院を休学して留学を決意しました。UCLAの大学院生としての授業内容そして、そこでのティーチングアシスタント(TA)の重要性について話しました。TAはクラス内の討論、学生の質問への回答や試験の採点も行っているとのこと。また、池洲氏はリサーチアシスタントの機会などを通じてUCLAでの研究活動も経験していると語りました。

伊豆明彦氏はMIT Sloan School of Managementで二年目のMBA学生です。2013年に東京大学法科大学院を卒業し、四大法律事務所の一つで M&Aやスタートアップ 投資を専門として企業をサポートしていました。その過程で、良いコーポレートロイヤーになるためには意思決定者としてのビジネス経験が不可欠と実感し、MITでMBAを取得することを決意しました。MITで出会った学生2人と共に、Multitude Insights, Inc.というアメリカの警察組織の活動をデータ分析によりサポートし、地域安全に貢献するためスタートアップを立ち上げたそうです。ボストンエリアの警察組織と正式なパートナーシップを結び、6万5千ドルの賞金を獲得するなど、大きな成果を収めています。MITでは、授業だけでなく、人的ネットワーク、資金提供やメンタープログラムなどを通じて学生たちのスタートアップ活動を支援する制度が確立されていると説明しました。

リン・ユシュ氏は現在コロンビア大学のSchool of International and Public Affairs(SIPA)でInternational Finance and Data Analysisを勉強し、東京大学公共政策大学院(GraSPP)とのダブルディグリー取得を目指しています。リン氏はSIPA Finance Society とWomen in STEMのメンバーで、コロンビアでの生活について語りました。コロンビアの学生たちは勿論勉強家で仕事熱心なだけでなく社交的でネットワークや学生運動に熱心の上、様々な背景を持つ学生たちは多数の課題や問題について積極的に観点や意見を交換すると述べました。UN Womenでのインターンシップが1週間後に始まり、春学期にはJ.P. Morganでの主権ESG(環境・社会・統治)アセスメントを行うコンサルティング・プロジェクトもあり、忙しい日々が待ち受けています。

東大博士課程2年目の森谷文香氏はフィラデルフィアに到着して1か月しか経っていませんがUniversity of PennsylvaniaのPerelman School of Medicineでインターンシップを始めています。アメリカで関連研究を行っている教授の下で技術を取得して東大の博士論文に活かすのが目標とのことです。神経細胞が一生を通じて新生し続ける海馬の新生現象と学習・記憶機能との関係について研究しています。脳機能を研究する様々な方法について説明し、研究室では海馬の電気活動の記録をするためのデバイスをゼロから作り上げることや電極をネズミの脳内に埋め込む手法などを習得していると報告。さらに研究会議でのプレゼンテーションの質の高さや鋭く率直な意見交換と言う素晴らしい研究環境に恵まれていることへの感謝の気持ちを述べました。また、研究者として研究室と家を行き来するだけだと人脈作りが難しいことに気付き、UPennでのJapan Association Clubのメンバーになったとのことです。

奥田朋仁はHarvard Kennedy School の公共政策修士(国際開発専攻)とMIT Sloan School of ManagementのMBAのDual degree programで現在三年目、最終年に入っています。支援と機会を頂いていることへの深い感謝を述べつつ、コロナ禍にもかかわらずやりたいことを成し遂げることができていることを強調しました。

奥田氏は発展途上国でのインフラ整備に関心を持ち、三菱商事で五年間インフラ開発を経験した後に渡米しました。プログラム最初の二年間で学んだ応用経済学やデータ分析等の知識を徐々に実社会の状況に応用していると語り、2つの例を紹介しました。一つ目の例は、ケニアで低所得者にオフグリッドのトイレを提供するベンチャーとのコラボレーションで、顧客の不払い行動を解析したMITのプロジェクトでした。奥田氏は三人のクラスメイトと共に、2千人以上の支払い行動データを分析し、各顧客の不払いの危険性を予測するモデルを作りました。ベンチャーはこのモデルを使い、リスクの高い顧客に対して効率的な予防策を提供することができるようになったとのことです。

一方、Harvard Kennedy Schoolでは、米国内の地方自治体との共同プロジェクトとして、市が保有する遊休地の活用方法の検討に取り組んだとのことです。税負担者の意見をいかに効果的に収集・反映するかが重要なポイントで、奥田氏のチームは短期間の内に調査を設計し、600人以上の住民から収集した回答を分析しました。こうした世論調査で近年アメリカの自治体が直面している問題の一つに、回答者の分布の偏りに伴う調査結果の過大・過少評価があるそうです。プログラムで学んだことが実社会で役立っていることに大きな手ごたえを感じていると語りました。

大森結衣氏はNorth Carolina State UniversityでLandscape Architectureの修士3年課程の1年目在学中です。津波、海面上昇、護岸堤防や海岸林など防災と景観保護を重視した海岸都市計画者を目指しています。景観設計プログラムの最初の一学期ではレクチャーやスタジオ作業、地形データを入力したデザインや雨水が地下でどのように流れるかなど基礎的な知識を得たとのこと。ハリケーンがよく通過するNorth Carolina State Universityは浸水に悩まされることが多く、災害による地形特性に基づく景観デザインも学んでいるそうです。ローリー市のノースカロライナ美術館やムアー・スクエア、ダーラム市などでの実地作業も含めて様々なプロジェクトに取り組んでいます。海岸デザインでの長期的な目標として大森氏は「海岸での大災害に対する強靭性」というスライドを発表しました。震災で倒壊した建物など震災の記憶を次世代のために保存する「震災遺構」について話し、また山と海の間にあるローリー市の海岸林が日本の海岸とどのように似ているかについても説明しました。海面上昇のため日本での海岸林が消滅していっていることを恐れ、ノースカロライナで得る海岸設計の知識をこれから日本で津波など大災害の対応に活かすのが目標と語りました。

阪本絢子氏はHarvard Kennedy School のMaster in Public Administration in International Development (MPA/ID)の2年目に在籍しています。再生可能エネルギーと気候変動に興味が持つ阪本氏は以前マネージメント・コンサルタントとして3年間 Deloitte Thomas Consultingというコンサルティング会社で主にエネルギー投資関連の仕事をしていました。東大ではソーラー発電を中心に経営工学修士を取得しました。学部は環境科学でした。民間部門で働いた際、気候変動の問題を公共部門・公共政策側から対処してみたいと思ったそうです。秋学期で受講中の授業内容を紹介し、さらに再生可能エネルギーと共に農業電化にも興味があるとして、卒論テーマ「ミャンマーの電化」について語りました。ミャンマーのエネルギー・アクセスはアジアで最も低く、現在その原因、そして現状改善のための政策を調査研究中です。また、気候変動への民間金融機関からの投資効果を計る評価用ツールの開発などを行うIFC(国際金融公社)のClimate Business Departmentで9月と10月にパートタイムのインターンを経験したとのことです。

輪千浩平氏はStanford Law SchoolのLaw, Science, and Technologyプログラムの修士課程に在籍しています。米国伊藤財団と東大友の会へ感謝の気持ちを述べ、他のFUTI奨学生と会える機会を得たことについて謝意を表しました。アメリカへの留学前は、弁護士として、企業法務専門の法律事務所に四年間勤務し、またGoogle Japanの法務部に二年間出向していました。これを契機にtechnology lawの分野に関心を持つようになったとのこと。スタンフォードに行くことに決めたのには二つの理由がありました。一つは、アメリカのテクノロジーに関する法規制(プラットフォーム規制、プライバシーデータの機密性、フェイクニュースやオンラインスピーチの規制など)、アメリカのテクノロジー法と規制に精通するため、そして二つ目は、日本でのLGBTQの問題に関する活動に貢献するために、スタンフォードでのLGBTQの生活や取り組みをもっと知るためということでした。スタンフォードではデータ保護の規制やインターネットと社会というテクノロジー関係の授業を受け、テクノロジー・プラットフォームへのグローバルな規制について討論をしています。LGBTのコミュニティー面ではOutlawのような学生団体のメンバーになり、意識を高めることがコミュニティーへのサポートを示す最も重要なポイントだと学び、日本でもアメリカでの経験を活かしたいと語りました。

 渡邉禎恒氏はWashington University in St. LouisのComparative LiteratureのPhD課程に在籍しています。東大ではフランス語フランス文学の学士号と修士号を取得し、修士課程在学中に交換学生としてスイスのジュネーヴ大学で学び、国際連合の第43回人権理事会でインターンとして勤務しました。

ワシントン大学セントルイスではコースワークのため忙しい日々を過ごしていますが、基本的にはいい経験になっているとのことです。渡邉氏は情報化社会が文学や文字表現に及ぼす影響の研究と共に、Data Science in HumanitiesのGraduate Certificate取得に向けて、テキストマイニングや自然言語処理を利用したベストセラーのアルゴリズムを調査するデータ科学と人文学を合わせた研究もしています。テキストマイニングにより、コンピュータを使って大量のデータを読むことが可能になり、研究者は従来の精読(close reading)とは異なる遠読(distant reading)を行うことができると説明しました。長期的な目標は自然言語処理技術を人文学研究に取り入れること、またデータを利用することで文芸創作の概念を革新することだと語りました。

各プレゼンテーションの後で学生たちは米国伊藤財団と東大友の会への感謝の気持ちを伝え、多くは支援なしでは留学をすることはできなかったと語りました。懇談会の後半は尾島理事長の司会で自由討論に移り、東大での「英語の授業」に関して賛否両論の意見交換がありました。尾島理事長は奨学生全員の素晴らしい英語力を賞賛し、国際的に活躍するには英語で喋るだけではなく、英語で考えることが重要だと強調しました。

最後にFUTI Alumni Association の羽場優紀会長より閉会の挨拶として、素晴らしいプレゼンをした奨学生全員へ感謝の言葉と共に、プリンストン大学でのPhD課程の活動、そしてFUTI Alumniの活動にについての紹介がありました。羽場氏の博士論文は気候変動による蚊の分布や行動の進化と、それらの蚊が媒介する感染症の分布推移についての研究です。締めくくりに米国伊藤財団―FUTI奨学金について語り、実は金銭的な支援は奨学金を受賞するメリットのほんの一部にすぎず、本当の恩恵は東大友の会で会うことのできる世界の様々な分野のリーダー達との交流、そして同じ世代で活躍する奨学生同士との交流こそにあると述べました。その信念のもと生まれたFUTI Alumni Associationの活動に加え、羽場氏が新しく立ち上げたオンラインで海外大学院留学を支援するNPO団体XPLANEの活動についても紹介し、気軽な会話からでも同窓会やXPLANEを通じての意見交換や関わり合い、繋がり合いを生み出していきたいと述べました。