
2025年1月24日、東大友の会の主催により、オンライン講演イベントが開催されました。本イベントは、さつき会アメリカ、ニューヨーク銀杏会、シカゴ赤門会、ワシントンDCエリア東京大学関係者懇親会、サンフランシスコ赤門会、シアトル淡青会、FUTI Alumni Associationなど、東京大学同窓会の支援(後催)のもとに実施されました。講演会には40人以上の参加者が集まり、関心の高さがうかがえました。
講演者は伊藤隆敏教授(コロンビア大学国際公共政策大学院 教授)で、講演では日本経済が直面する4つの大きな課題「Demography・人口動態」「Debts・債務」「Deglobalization・脱グローバル化」「Decarbonization・脱炭素化」について、多角的な視点から解説が行われました。 [先生の最近の著書、論文, videoを含むホームページは、こちらをご覧ください、https://t-ito.jp/]
ご講演では、まず人口動態の問題について、平均寿命が伸び続ける一方で出生率は低下し、高齢化が進む中、労働力人口の減少、家計貯蓄および潜在的な経済成長の鈍化、消費および投資需要の減退、そして年金・医療・介護といった社会保障への負担増が指摘されました。労働力人口の減少を示す指標として、1965年には高齢者1人を9.1人の現役世代が支えていましたが、2005年には3.1人、2017年には2人、そして2050年には1.2人まで減少するという予測があります。戦後の第1次ベビーブームおよびその子ども世代による第2次ベビーブームはありましたが、第3次ベビーブームは発生していません。
次に、債務拡大と財政の持続可能性の低下について述べられました。1991年以降、日本政府の財政赤字は拡大を続け、歳出は増加し続ける一方で、所得税収は減少傾向にあります。特に、1997年の山一證券の破綻や2008年の世界金融危機、そして新型コロナウイルス感染症のパンデミック時には、赤字国債の発行が急増しました。現在、日本の政府債務残高はGDP比260%と、G7諸国で最も高い水準にあります。このことにより、財政危機やハイパーインフレのリスクが高まり、国債利払い額の増加により財政が逼迫し、若年世代への税負担増加が懸念されています。
3つ目は、脱グローバル化です。トランプ大統領による関税の導入は世界貿易の停滞を招き、米国向け輸出を重視する日本企業にとっては大きな打撃となりました。これに伴い、関税回避のためのサプライチェーン再構築コストも増加しています。今後、グローバル・サウスとの貿易拡大は期待される一方で、中国との貿易拡大は業界や米中関係の状況に依存するという見通しが示されました。
4つ目は、脱炭素化の課題です。アメリカのパリ協定離脱により、世界全体の脱炭素化の勢いは減退しました。中国は引き続きパリ協定の一員であるものの、同国の炭素排出量は依然として増加しています。日本では京都議定書により温室効果ガス削減が試みられましたが、2011年の東日本大震災と福島原発事故後に排出量は一時的に増加しました。その後、2013年以降はパリ協定の枠組みの中でCO2排出量が減少傾向にあります。電気自動車の普及率では、ノルウェーが93%と世界をリードする中、日本は3.6%と依然として低水準です。また、再生可能エネルギーの利用割合も低く、依然として石炭依存が大きい状況です。
講演の後半では、トランプ政権再登場の影響と事前に寄せられた質問への回答が行われました。
最初に、トランプ大統領による関税引き上げは交渉の駆け引きであり、最終的には実施されないという一般的な見解が紹介されました。これに対して伊藤教授は、外部歳入庁(External Revenue Service)の設立や関税収入の重要性を強調する姿勢を踏まえ、今回は実際に多くの関税が実施される可能性があると指摘しました。
続いて、日本に対する10%の関税が課された場合の影響について質問がありました。伊藤教授は、日本の輸出企業は輸出価格を引き下げることで輸出量を確保し、国内生産を維持する可能性があると述べました。企業利益は減少するものの、円安とドル高が進めば、円建ての利益は大きく減らないかもしれないとの見解を示しました。
3つ目として、関税の引き上げが米国の物価上昇を招き、インフレ抑制のためFRBが金利を引き上げ、ドル高が進み、他国の報復関税により米国輸出が停滞し、財政赤字も減らず、最終的にスタグフレーションに陥るという一般的なシナリオが提示されました。これに対し伊藤教授は、トランプ大統領は他国が関税を無視して輸出を続けていると非難し、相手国に通貨高を強要する可能性があると述べました。
さらに、トランプ2.0が中国に対し60%の関税を課し、同時に米国からの輸入を増やさせ、先端技術の中国流出を防ぐために同盟国とともに対中包囲網を構築するというシナリオも紹介されました。一方で伊藤教授は、TikTokの禁止措置を一時停止しようとしたことなどから、トランプ大統領は中国を必ずしも脅威と見なしていない可能性があるとし、習近平との歴史的合意を自らのレガシーとしたいのではないかとの仮説を提示しました。しかし、中国への60%関税、同盟国への10〜25%の関税は、米国の孤立を招く可能性があるとも指摘しました。
Q & A セッションでは、脱グローバル化、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)、財政赤字、大学の専攻、労働移動、育児支援など、多岐にわたるテーマについて活発な質疑応答と議論が行われました。最後に主催者が、「大変Timely なテーマに関して貴重な情報、分析を共有してくださり、大変有難うございました。多くのことを学ぶことができました」と講演者に深い感謝の意を表したのち、親睦会へと移り、和やかな懇談が行われました。