UCLA

Ryo Ikesu

0. はじめに

2021年9月からカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) 公衆衛生大学院の修士課程 (疫学)に留学している、池洲 諒 (いけすりょう)です。1年間の総まとめの報告書として、これまでの2回の報告書に続く形で書きたいと思います。

1. 2021年9月から10月(第1回報告書より)

略歴

2016年に東大医学部を卒業し、2年間の初期臨床研修を経て、公衆衛生の研究の道に進みました。留学前は東大の博士課程に在籍していましたが、博士号を得る前にもっと研鑽を積みたいと思い、東大を休学して留学を決意しました。

渡米・生活セットアップ

9月20日がオリエンテーション開始日だったので、9月13日に渡米しました。渡米にあたり、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種 (これはUCLAのrequirementで、私は医療従事者として6月時点で完了していました)や、入国前3日以内の陰性証明書 (新型コロナウイルス感染症)が必要でした。そのほかに渡米前に済ませておいてよかったと思うのは、現地で使うSIMカードの入手と銀行口座の開設 (とデビットカードの取得)です。大学の寮 (家具付き、電気ガス水道インターネット完備、キャンパスから徒歩15分) に当選していたので、渡米後に住居を探す必要はありませんでした。

寮の外観 見た目はトロピカルだが、最近の朝晩は結構寒い

寮はStudioタイプと呼ばれる、日本でいうワンルームのような間取りです。ベッド・勉強机・冷蔵庫などは備え付けですが、石けん・食器・シーツなど自分で調達しなければならないものも多くて手間取りました。Amazonや量販店通いでなんとか取り揃えましたが、Amazonで頼んだテレビのスクリーンがバキバキに割れていた時は、孤独感もあいまって悲しくなりました (返品。結局現在はテレビなしの生活)。また、自炊に使う日本の調味料は、LA歴の長い日本人の方に日系スーパーに連れて行ってもらって調達できました。1週間ほどで衣食住は最低限のレベルを整えることができ、無事にオリエンテーションに臨むことができました。


授業

私は今学期3つの授業を履修しています。UCLAではこの秋から対面授業を解禁していますが、公衆衛生大学院はクラスの人数に応じて適宜オンライン授業を取り入れています。私の場合、対面授業は1つのみで、ほかはZoomで受講しています。日本の多くの場合と違って、授業では学生の継続的なコミットメントが求められる印象です。成績は期末試験の結果のみでなく、毎週の確認テスト・2週に一回のペースで出される宿題・中間試験の結果も総合して決まります。授業内容はそこまで高度ではないですが、このようにして学生に基礎をたたき込んでいるのかな、と感じます。最初は細々とした課題の多さに戸惑いましたが、最近は徐々に慣れてきました。

研究

UCLAに留学するにあたり、授業にとどまらず、積極的に研究の機会を得たいと考えていました。私の主な研究関心は因果推論 (主に観察研究のデータを基に変数間の因果について考察する)・健康の社会的決定要因・医療政策で、これらに造詣の深いfacultyとの研究の機会を探っています。留学1ヶ月目の進捗としては、(様々な先生・先輩方の助けを借りて) そうしたfacultyとのミーティングの機会を得ることができました。また、それとは別にリサーチアシスタントの機会もいただきました。まだまだ芽は出ていませんが、積極的にアクションを起こして前進したいと思います。

2. 2021年11月から2022年1月(第2回報告書より)

12月に最初の学期が終わり、今月(1月)から二学期目が始まりました。2回目の留学報告をさせていただきます。

米国での生活

昨年11月、Thanks giving明けの時期にWHOがオミクロン株をvariant of concernに指定しました。各国が国境管理を厳しくする中、年明けに米国への再入国で苦戦することを懸念して、私は12月の日本への一時帰国をキャンセルしました。留学以降、妻 (在日本) とは離れて暮らしており、突発的に一時帰国をキャンセルに至らしめた今回の騒動には辟易としています。

案の定、米国内では新型コロナウイルスの新規感染者数が急増し(全米で一日100万人を記録)、今学期から大学は閉鎖され、授業はすべてオンラインに逆戻りしました。ワクチンの追加接種について大学からの要請があり、また米国では2回目接種から6ヶ月経過後から追加接種が可能であったことから、先日追加接種をしました。インターネットで近隣の薬局での接種を簡単に予約でき、当日は保険証とID (パスポートなど)を持参すれば接種を受けることができました (日本のように接種券が送られてくることはありませんでした)。


授業

先学期の授業3つは無事に終え、成績はA+が2つ、Aが1つでした。

今学期は4つの授業 (疫学、統計学、プログラミングなど) を履修しています。授業内容は先学期よりも少し発展的ですが、個人的にはまだ余力があります。ただ、先学期と違って少人数の勉強会グループができたので、英語のよい練習になっています。

研究

先学期にミーティングをしたfacultyとコミュニケーションを取り続けるよう努めたところ(要求されてもいない研究計画書を送るなど)、12月に彼女の下でのリサーチアシスタントのオファーをいただきました。留学序盤からのリサーチアシスタントに追加で2件目ですが、年末の帰国をキャンセルしたこともあり時間的には余裕がありました。幸い発表できそうな結果も得て、現在は学会発表 (共著、Asian Americanの認知症発症に対する教育の予防効果について) に向けて抄録作成をしています。共著ながらもUCLAでの研究として1つ形になりそうであることに安堵する一方で、今後は自身が筆頭著者として研究できるよう、先行研究などの研鑽を積みつつ機会を伺っています。

その他

UCLAには、Language exchangeプログラムといって、勉強したい言語を母語とする学生同士をマッチングさせるプログラムがあります。私も登録し、つい先日日本語を勉強中のアメリカ人 (材料化学の博士課程学生) とマッチしました。研究ミーティングなどで使う英語の微妙なニュアンスやミーティングでの作法に困ることが多いので、英語コミュニケーションの暗黙知のようなものを学べれば、と意気込んでいます (逆に私は日本語を満足に教えられるのでしょうか)。

UCLAのシンボルとも言えるRoyce Hall
キャンパスは広大かつ綺麗で、散歩やジョギングはよい気分転換になる

3. 2022年2月から6月

3月中旬までが冬学期で、1週間の休みを挟んで3月末から6月上旬が春学期でした。

生活

2月頃からリサーチアシスタントとして関わるプロジェクトが次々と佳境を迎え、授業の課題も多くなりました。そのため、春学期が終わるまで、課題・試験勉強・研究で多忙でした。特に冬学期は講義もオンラインのため自室にこもりがちで、合間にキャンパスをジョギングすることが唯一の息抜き、という生活でした(春学期は対面授業が再開されました)。せっかくロサンゼルスにいるにもかかわらず観光を楽しむ余力がほとんどなかったので、それは今後の課題にします。

授業

冬学期の授業の成績はA+が3つとAが1つでした。特に印象に残っているのは、疫学の授業です。疫学は、(ざっくり言うと)ある集団から抽出したデータを用いて何かしらの曝露要因(例: 放射線被曝)と健康指標 (例: がん発生)の因果関係を評価する学問ですが、授業では「どの集団が関心対象なのか」を常に明確にするように叩き込まれました(そうでないと、データで検討している曝露要因と健康指標の因果関係の妥当性を吟味できないからです)。言われてみれば当然なのですが、課題や試験では折に触れてこの点を意識していることを試されました。良し悪しは別として、こうした基礎の叩き込みを日本で経験しなかったので、新鮮でした。

春学期は3つの授業を履修しました(疫学、統計解析、プログラミング)。総じて課題が多く、常になにかの締め切りに追われる状態が学期中続きました。課題の度に友人たちとディスカッションの機会を設けて理解を深める、というスタイルで乗り切りました。この一年は必修科目に指定された基礎的な講義を中心に受講したので、次の一年はより自身の興味に合わせた講義(発展的な因果推論、医療政策など)を受講する予定です。とても楽しみです。

研究

今年に入ってから、リサーチアシスタントを2件続けています。データ解析、学会抄録・論文の執筆、研究プロポーザル作成などの経験をさせてもらっています(第二著者の論文が複数進行中です)。研究スキルの面で学ぶことがある以上に、それぞれのprincipal investigatorが履修・研究・キャリアに関してアドバイスをくださるので、とても有意義です。本当は学期中に第一著者としての研究も進めたかったのですが、授業の負荷もあって後手になってしまいました。これまで学んだことを生かして、夏休み以降に腰を据えて取り組みます。

今後について

2022年9月からは、博士課程の学生としてUCLAで勉強・研究を続けることになりました。私の所属する修士のコースでは、1年目の成績が一定以上であれば、(修士号取得を経ずに)2年目の秋学期から博士課程へ編入することができます。元々は2年間の修士課程を終えて東大に戻って博士号を取得するつもりでしたが、1年弱過ごす中で、UCLAの研究環境で研鑽をつむことが自身の成長につながると思えてきました。1年目の成績が編入のための要件を満たしていたため、いろいろな方からアドバイスをいただきつつ、編入を決めました。当初予定していたよりも長い期間UCLAで修業することになりますが、公衆衛生の分野でインパクトのある研究をするための基礎を身につけるべく、精進を続けます。

4. さいごに

この1年間ご支援を頂きました東大友の会と米国伊藤財団の方々に、感謝申し上げます。1年目の留学生活をなんとか走りきれたのは、日頃の温かいご支援のおかげです。今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。