東大友の会支援の第13回山川健次郎記念レクチャー開催

Alexandre Debs 教授
(イェール大学政治学部)

2018年12月18日
12月19日

イェール大学政治学部からAlexandre Debs教授をゲストスピーカーとしてお迎えし第13回山川健次郎記念レクチャーが開催されました。今回は12月18日に東京大学駒場キャンパス、12月19日に本郷キャンパスで2回の講演が行われました。

Alexandre Debs 先生

Alexandre Debs先生はイェール大学政治学部で教鞭をとられ、同大学のマクラミラン国際地域研究所のリサーチフェローも務められています。モントリオール大学で経済学と数学の学士を取得し、オックスフォード大学でローズ奨学生として経済と社会史の修士号を取得された後、マサチューセッツ工科大学にて経済学の博士号を取得されました。先生は、戦争の起こる原因、核兵器の拡散、民主化について研究を行われており、その研究論文は、the American Political Review, the Annual Review of Political Science, International Organization, International Security, International Studies Quarterly, the Journal of Conflict Resolution and the Quarterly Journal of Political Science 等、多くの主要な学術専門誌に掲載されています。最近では、2017年にケンブリッジ大学プレスから “Nuclear Politics:The strategic Causes of Proliferation (with Nuno Monteiro)” というタイトルの著書を出版されました。

駒場キャンパス講演会

12月18日の講演会は、東京大学駒場キャンパス、国際社会科学学部国際関係科の協力のもと、“The Strategic Tensions of the July Crisis”というタイトルで開催されました。この講演会は国際関係の専門家に向けてセミナー形式で行われ、東京大学や他の大学から研究者、大学院生等16名が参加しました。

大多数の歴史家は、交戦国の指導者が戦争に比較的容易に勝利することができると予測したため -すなわち相互楽観主義によって- オーストリア最後通牒(July Crisis)が第一次世界大戦を引き起こしたとする見解で一致している。しかしながら、この相互楽観主義は、戦争原因説明の主流となっているゲーム理論的説明においては論理的に説明不可能である。相互楽観主義に基づく戦争の合理的な説明のためには、指導者が武力紛争の結果まで計算するという従来の見解を修正し、更に指導者が国民に戦争の理由を説明できることが重要であると仮定した時のみ可能となる。このような観点からDebs先生はオーストリア最後通牒における相互楽観主義を論理的に説明するモデルを示されました。すなわち、敵の攻撃性により国民に戦争の必然性を説得し易くなり、比較的低いコストで短期間に勝利できるという確信を強めることができた時、すべての交戦国がそれぞれ単独に楽天主義になると述べられました。

本郷キャンパス講演会

60分の講演の後、白糸裕輝先生(ミシガン大学助教授、東京大学法学部卒業生)からコメントを頂き、その後に活発な議論が行われました。参加の大学院生から多岐にわたる質問が寄せられ、また関連する問題も提示され、議論は大変質の高いものとなりました。

12月19日には本郷キャンパスにて “The Strategic Causes of Nuclear Proliferation: Northeast Asia in Comparative Perspective” と題する講演が行われました。この講演会は東京大学公共政策大学院と政策ビジョン研究センターとの共催で開催され、学内外から45名の参加者がありました。樋渡展洋先生(社会科学研究所)の挨拶に続き、Debs先生は最近出版されたご自身の著書の概要を説明されました。先生はその著書の中で、核兵器拡散の原因についての革新的な説明を行い、効果的な核拡散阻止について再検討されています。

Debs 先生と聴講者

数理モデルの知見を、核兵器取得の試みが行われたすべての周知のケースで検証した結果、次のような結論に至りました。即ち、国家は、国の安全が重大な脅威にさらされた時、核兵器製造の技術を手に入れるだけの経済力がある時、共通の敵を阻止してくれる強力な同盟国を持たない時、核兵器を取得する。したがって、核保有を望む国が実際に核を保有する前に、敵対国が効果的な予防戦争を起こすことができる、あるいは同盟国が核の傘でその国家の安全を保障することができれば 核拡散は防止できる可能性が高いと論じられました。先生は核拡散防止においては、脅威は核兵器を取得する可能性のある弱国に対しては最も効果的であり、強国に対しては安全を保障することが効果的であると結論づけられました。したがって、北朝鮮の場合は、予防戦争はソウルを破壊して甚大な被害を出し得るがゆえに効果的ではなく、また韓国や日本の核開発抑止には米国が傘の提供をし続けることが重要であると説明されました。

右から栗崎先生、Debs先生、樋渡先生

Debs先生の講演に続き、栗崎周平先生(早稲田大学准教授)がその理論の斬新さと説得力について解説され、その後、参加者からDebs先生への質問を受け付けました。参加者からは示唆に富んだ質問が続き、前日の駒場でのセミナー同様、大変盛況な講演会となりました。

山川健次郎記念レクチャーは東大友の会(FUTI)の支援を受け、イェール大学マクミランセンターの協力によって開催されています。

*山川健次郎博士は、1875年にイェール大学を卒業した最初の日本人。帰国後、東京大学において物理学の教鞭を執った後、東京、京都、九州の各帝国大学の総長を務め、近代日本における高等教育の発展に尽力しました。山川健次郎博士を記念し、2013年より毎年数回イェール大学から講演者を招聘し山川健次郎記念レクチャーを開催しています。