伊藤隆敏元FUTI理事を悼む

東大友の会の元理事であられた伊藤隆敏教授が、2025年9月20日(米国時間)、74歳でご逝去されました。伊藤教授はコロンビア大学国際公共政策大学院(SIPA)の教授を務められ、マクロ経済学、国際金融研究の分野における国際的な学者として世界的にご活躍されました。

FUTI東大友の会では「大学担当理事」を務められ、若手研究者支援プログラムの立ち上げや講演会でのご講演などを通じて、後進の育成に尽力されました。国際社会で活躍するロールモデルとして、多くの若い世代に大きな影響を与えられました。謹んで心よりお悔やみ申し上げます。

伊藤教授は1950年に北海道にお生まれになり、筑波大学附属駒場高等学校を経て一橋大学に進学。同大学にて学士号(1972)、修士号(1975)を取得された後、ハーバード大学で博士号を取得されました(1979)。その後、ミネソタ大学、一橋大学、東京大学(先端科学技術研究センター、大学院経済学研究科、公共政策大学院)、政策研究大学院大学にて指導的役割を担われ(2014年より東京大学および一橋大学名誉教授)、2015年1月よりコロンビア大学国際関係・公共政策大学院教授に着任されておられました。

行政および政策面でのご貢献も幅広く、日本国内では財務省国際局長(国際担当財務官)、内閣総理大臣経済財政諮問会議のメンバーを務められ、海外では国際通貨基金(IMF)上級顧問、世界経済フォーラムなどにおいて活躍されました。著書や論文は多数にのぼり、学術的な業績も極めて豊かで、その論文は250本を超えます。2011年には紫綬褒章、2024年には瑞宝中綬章を受章されました。

私たち遺された者は、伊藤先生の不在の大きさを痛感するとともに、先生が東大友の会および後進に寄せられた思いを大切に引き継ぎ、さらに発展させていきたいと考えています。以下に、東大友の会でご指導いただき、また深いインスピレーションを受けた同僚のコメントを掲載いたします。

尾島 巌、FUTI 理事長

伊藤先生は2018年、山田前理事長の時に諮問委員として東大友の会(FUTI) の活動に加わられて、翌年2019年に、大学担当理事に就任されました。経済学の世界的な学者として、東京大学とコロンビア大学、さらには日本経済と米国経済の橋渡し役を務められていましたので、FUTI 理事会でも次世代のリーダーをどの様に育てるかに関して、いつも貴重なご意見を頂きました。ここ数年はアカデミアの若手学者を支援する「トラベルアワード」の立ち上げにご尽力いただきました。今春には東京大学の最高峰である東京カレッジで活動されていて、藤井総長の意欲的な “College of Design” 構想を支援されていましたので、訃報を受け取った時には本当に驚きました。温厚な紳士で有りながら鋭い洞察力と話術で人を引っ張って行くお人柄でしたので、寂しい限りです。先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

武神淳之、FUTI 業務担当理事

伊藤隆敏教授は、Friends of UTokyoでのご活動をはじめ、関わるすべての場に独特の機知と鋭い知性、そして尽きることのない好奇心をもたらしてくださいました。

伊藤教授は、若手研究者がグローバルな学術ネットワークを築く力を育む先見的なプログラム「FUTI Travel Award」の創設に尽力され、その軽やかな才気と国際交流への深い献身がこの賞の礎を形づくりました。

私たちは、FUTI Travel Awardを機会とつながりの永続的な遺産として、今後も大切に育んでまいります。

ご逝去の報に接し深い悲しみを覚えるとともに、この意義ある事業をともに推進できたことに心より感謝申し上げます。

山田雅章、FUTI 諮問委員長

伊藤隆敏先生は、日米の経済学界において数多くの重要なご貢献をされ、今後ますますのご活躍が期待されていた中、病のために急逝されました。

FUTIにとりましても、伊藤先生はかけがえのない存在でした。数年前、私がFUTIの理事をお願いした際には、快くお引き受けくださり、お忙しい中にもかかわらず、理事として幅広い視点から多大なご助言とご貢献を賜りました。

特に、FUTIの中心的な活動であるスカラーシップ事業においては、小出理事と共に、若手研究者が国際会議に参加する際の旅費を支援する新しい枠組みを確立し、その誠実なご尽力により着実に運営してくださいました。

また、世界経済の中における日本経済の位置づけなどについて、私たちにとって大変わかりやすく示唆に富むご講演を何度もしてくださり、深い学びと感銘を与えてくださいました。

ご逝去の報に接し、痛惜の念に堪えません。ここに謹んで心より哀悼の意を表します。

大迫政子、FUTI 広報担当理事

FUTIの広報チームでは、年に3〜4回、卒業生の興味・関心に応えるために講演会や懇親会を開催していますが、伊藤先生はその中でも特に人気のある講演者でいらっしゃいました。「総選挙後の政治状況と経済政策の課題」(2017年)、「日本経済の課題:少子高齢化、財政の持続可能性、地政学的リスク」(2025年)など、時宜にかなったテーマについて、専門外の方にもわかりやすくお話しくださり、毎回大変好評を博しました。

また、毎年、東京大学から「体験活動プログラム」の一環として学生がニューヨークを訪れますが、その際には、10名ほどの学生が伊藤先生のコロンビア大学の研究室を訪問し、先生ご自身のキャリアやご経験についてお話をうかがう機会をいただいておりました。「日本と米国の大学の違い」や「アメリカの大学院でどのように実りある生活を送ることができるか」など、学生から身近な質問が出るたびに、先生は一つ一つに丁寧かつユーモアを交えてお答えくださり、そのご様子が今も印象に残っています。日米両国でご活躍された先生は、学生たちにとってまさに素晴らしいロールモデルでした。

先生を失い、本当に寂しい限りです。心よりご冥福をお祈り申し上げます。