米国東部時間2022年11月4日(日本時間11月5日)に在米国日本国大使館一等書記官でおられる久米隼人氏(東大OB)による講演・懇親会がオンラインで開催されました。このイベントは、さつき会アメリカDC/NYの主催で行われ、東大友の会との共催でした。当日は、米国や日本から様々なバックグラウンドを持つ総勢26名が参加し、大盛況のうちに幕を閉じました。
久米氏は、2006年に厚生労働省に入省し、医療政策、障害者政策、働き方改革などを歴任し、新型コロナウイルス感染症対策推進本部に従事した後、2020年9月から在米国日本国大使館の一等書記官として、新型コロナウイルス、国際保健等の分野を担当しておられます。今回の講演では、新型コロナウイルス感染症対策推進本部でのご自身の経験や、米国赴任後に見た米国のコロナ対策を踏まえ、日本のコロナ対策に対する私見についてスライドを用いて、以下の5点を中心にお話をしてくださいました。①他のG7構成国と比較した日本のコロナ感染者数とワクチン接種率の実態、②日本政府のコロナ感染症に対する初動対応の実情、③経済と医療の側面における対立軸、④日本政府のワクチン確保から接種までの道のり、⑤コロナ感染症への対応を通して分かったこと。
参加者からは、「日本政府のコロナ感染症に対するきめ細かい取り組みについて知れてよかった」「多くの人の命をつないでくださったことに感謝しかない」「日本の良いところが海外に伝わらないことに、どのように対応したらいいのかという大切な課題を投げかけてくれた」「まだコロナが続いている中で、最前線で頑張ってこられた方のお話をうかがえて、本当によかった」といった感想を多数いただきました。
講演に続いた質疑応答では、「今後5年間のうちの検討・改善すべき点」について、東大友の会副理事の桑間雄一郎先生をはじめとして、米国および日本の医療の最前線でご経験のある方や、公衆衛生学や薬学を専門とされる方など多数参加されたこともあり、内容の深い質問・意見交換が行われました。制限時間を超える程の興味深い質疑応答が続きました。以下はその一部です。
(参加者)
米国、日本、各々が取り入れた方が良い視点、方法がありましたら伺いたいです。
(久米)
日本は、幸か不幸か、初動対応の際、ダイヤモンドプリンセス号に専門家を交えて対応し、コロナ感染症の特徴(無症状感染やエアロゾル感染)について、世界でも初期の段階で把握できたことが、後の対策につながりました。また、過去の新型インフルエンザやSARSの経験を踏まえ、レトロスペクティブ・トレーシングによる感染把握・検査・隔離がしっかりできていたことです。そして、世界でも特有の保健所機能があることは、地域ごとにこのような対応を図ることができた要因であり、海外に誇れる部分だと考えます。一方、米国の良かった点は、コロナの前からワクチン開発に国と民間企業が投資を行ってきたため、予測以上に精度の高いワクチンが早い段階で実用化できたことです。日本では、ワクチン忌諱の風潮が諸外国に比べて大きく、過去に訴訟に至った例もあったため、多くの製薬企業がワクチン開発から撤退した結果、国内でのワクチン開発が遅れてしまいました。これについては、今後の日本の課題であると考えます。(参加者)
コロナ流行当初、米国の飲食店は営業を停止したが、日本は営業時間の短縮程度にとどまっていたと認識しております。それに対する、見解をお聞かせください。
(久米)
日本では、飲食店の営業停止等の措置は強制ではありませんでした。しかし、営業時間の短縮のほか、入店人数の制限、アルコール類の提供自粛など、感染状況に応じたきめ細かな要請により、一定の効果はあったと考えております。プレゼンテーションでもお話しした通り、経済との両立はバランスが重要であり、難しい判断だったと思います。(参加者)
当初日本では、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種率が低かったが、コロナワクチンのおかげでワクチンに対する抵抗感が和らいだのか、最近はHPVワクチンの接種率が上がってきていると聞きました。いかがでしょうか?
(久米)
コロナの流行後、国民の科学リテラシーが高まり、HPVワクチンの接種が前進したことは大きな進展だと思います。しかし、ワクチン接種には有効性と安全性の両面があり、その個人差も大きいため、接種の判断自体は、これらのリスクベネフィットを踏まえた上で個々人に委ねざるを得ません。政府は今後も、ワクチンに関する情報について、専門家やその分野に長けた民間の人たちも交えて、国民へ説明していくことが重要だと考えます。(参加者)
マスメディアの在り方についても、今後の課題であると考えます。
(久米)
その通りだと思います。しかし、マスメディアも視聴率や、視聴者の選好を意識した報道をしている現状があるので、やはり国民の科学リテラシーを更に高めていくことが重要だと考えます。
さらに久米氏は「このような機会をいただいたことで、コロナ感染症に対する日本政府の取り組みについて皆様に知っていただき、多く方に活発なご議論をいただいて、私にとっても、有意義な機会となりました」と述べられました。
文責:さつき会アメリカDC/NY イベントチーム