スタートアップでグローバルなチャレンジに挑む: 治安活動のためのインテリジェンス・ツール

はじめまして。2021年FUTI奨学生の伊豆明彦です。西村あさひ法律事務所で弁護士としてM&A・コーポレート分野を専門に6年ほど働いたあと、2022年にマサチューセッツ工科大学(MIT)にてMBAを取得しました。MIT在学中にアメリカの警察向けに犯罪情報を共有・分析するプラットフォームを提供するスタートアップ、Multitude Insightsを共同創業し、現在はボストン・ニューヨークを拠点として経営しています。

アメリカで犯罪が多いということは、銃乱射事件などのニュースでご存知かと思いますが、比較的安全なボストンでも、目の前で万引きを見たり、タイヤが盗まれた自転車が道端に放置されていたり、犯罪を身近なものとして感じることが多いです。アメリカの犯罪の多さにはさまざまな原因がありますが、そのうちの一つが、警察組織間の情報連携の弱さです。アメリカには約1万8000の警察組織が存在しますが、メーリングリストやファックスなどで近隣の警察組織にランダムに情報提供を求めることが主流で、警察組織間での情報連携は極めて非効率です。そのため、管轄区域を跨いだ犯罪は検挙されにくいのが現状です(新宿で複数の万引きをした後に渋谷に移って万引きを再開すると犯罪情報が遮断されてしまうイメージです)。

この社会課題を解決すべく、MIT在学中に、アメリカ海軍で情報分析官だった同級生とMultitude Insightsを創業しました。Multitude Insightsでは、UI/UXやAI/MLを活用して警察組織間の情報共有を効率化し、犯罪同士の隠れた関連性を提示する技術を開発しています。MIT卒業後2年間で、ニューヨーク拠点のVCを中心に総額$5.4mの資金調達を完了し、チームも10名を超え、先月からはボストン警察にもシステムが導入されています。

アメリカでスタートアップを経営しながら感じるのは、意思決定とリーダーシップに基づくビジネスの動きの迅速さです。まず、意思決定に関しては、ミーティングの初期段階から意思決定者(CEOや幹部クラス)が出席して、その場でプロジェクトを進めるかどうかの判断がされることが多いです。将来の買収の可能性を見越してなのか、大企業であってもスタートアップとの連携に前向きなことが多いため、大企業との事業提携や技術提携を通じて事業を拡大していくチャンスがたくさんあります。また、意思決定がされた後の動きも迅速で、これはCEOをはじめとする経営陣の強いリーダーシップに支えられていると思います。Multitude Insightsの事業内容の関係上、元軍人や元警察官のメンバーが大半を占めていることから、リーダーシップについてチームメンバーから学ぶことも多く、グローバルで活躍できるリーダーになれるように日々試行錯誤しています。

いまこうしてアメリカでスタートアップに挑戦できているのは、MITのビジネススクールでの経験や学びが大きく寄与しています。東大友の会からは奨学金だけではなく、アメリカの最前線で活躍されている理事や委員の方々からのサポートもいただき、大変感謝しています。私もいつかグローバルに挑戦する東大生・東大卒業生に還元できるよう研鑽を重ねていきたいと思います。