藤永ゴードン清乃(2014年FUTI Global Leadership Award 受賞者、カーネギーメロン大学言語文化応用言語学学科助教)
カーネギーメロン大学(CMU)は、科学技術分野で世界的に知られる教育機関です。私はここで、主にコンピュータサイエンス、ロボティクス、工学などを専攻する学生たちに、日本語と日本文化(主に社会言語学)を教えています。多くの学生は語学専攻ではなく、また日本語をフォーマルに学んだこともありませんが、非常に高い好奇心を持っています。アニメや国際的なキャリア志向に惹かれて学び始める学生も多く、彼らの姿勢は、STEM中心の教育の場においても言語・文化教育が重要な位置を占めていることを示しています。
CMUは、アメリカ国内でも数少ない、日本語履修者数がスペイン語履修者数を上回る大学のひとつです。これは本学の学生の関心のユニークさをよく表しています。Anime: Visual Interplay Between Japan and the Worldという一般教養科目は、毎学期すぐに定員に達し、長いウェイティングリストができるほどの人気を誇ります。また、「初級日本語」も学生たちから高い関心を集めています。CMUの学生の探究心と日本学が交わることで、CMUならではの学際的な学びと文化理解が行われていると言えるでしょう。
私は現在、言語文化応用言語学学科の日本語学の教員として、2種類の授業を担当しています。1つは一般教養科目の「アニメ」と「日本語・日本文化入門」、もう1つは、初級から上級までの日本語コースです。
一般教養科目は、言語知識や専攻を問わず全学生が履修できます。「アニメ」では、アニメというメディアがナショナリズム、グローバル化をどのように反映・形成するかを探究します。ある学生は最終課題として短編映画を制作し、国際的な映画賞を複数受賞しました。その後、私は彼女の卒業論文(第二次世界大戦中の日本をテーマにしたSFロマン小説を執筆)を指導しました。「日本語・日本文化入門」では、「日本人は生まれつき礼儀正しい」「日本語は難解だ」といった神話を問い直し、言語がどのように社会階層を反映・再生産するかを考察します。また、アイヌ、沖縄、LGBTQ+といった周縁化された日本社会の人々を中心に据え、アイデンティティ、人種、ジェンダー、権力について批判的に考察します。
CMUで日本語と日本文化を教えることの最大の喜びは、学生の視点が大きく変わる瞬間を目にできることです。「日本の文化を学ぼうと思って受講しましたが、このクラスを受けて、文化は決して一枚岩ではなく、動的で、層があり、時には対立するものだということに気づきました。」との学生からのコメントもありました。こうした学びは、日本についての理解を深めるだけでなく、グローバル社会における自身の価値観や立ち位置への気づきを促します。
中級日本語では、地域社会とのつながりに重点を置いています。学生たちは、自身のCMUやピッツバーグでの生活について、日本にいるCMUアルムナイの方達に向けて日本語でエッセイを書いたり、地域の日本語話者向けに多言語教材を作成したりします。たとえば、UPMCピッツバーグ子供病院とコラボし、小児患者向けの日本語教育テレビ番組を制作するプロジェクトがあります。この経験は、学生の言語スキルを「思いやり・アクセシビリティ・創造性」といった価値と結びつけるものであり、教室の学びを実社会につなげる力を育てます。
上級日本語では、批判的読解、ディベート、リフレクティブライティングに重点を置いています。日本の時事問題に関する論説やエッセイを読み、語彙力と分析的思考を鍛えることで、学生の批判的思考能力を高めていきます。
CMUの学生は非常に意欲的で、自学で初級日本語を飛ばし、中級・上級から履修を始める学生もいます。多くはアニメを通じて日本語を学び始めたという背景を持ち、その学びの姿勢と工夫には毎回驚かされます。独学と体系的な指導の組み合わせがいかに強力であるかを実感します。
この仕事で直面してきた課題の多くは、教育内容というよりも、制度的なものでした。テクノロジー中心の環境で人文学の価値を訴える必要があり、特に語学教育が「補足的」とみなされがちな場面ではその重要性を根気強く示す努力が求められます。また、メディアによって形成された本質主義的な日本理解を持つ学生も多いため、ステレオタイプを解体しつつ、その興味関心を失わせないような丁寧な指導が必要です。さらに、文化教育を「表層的な知識の暗記」にとどめず、批判的かつ謙虚さを持って扱うためには、常に教材と授業デザインの見直しが求められます。それでも、学生たちが日本語に堪能になるだけでなく、グローバルな視野を広げていく様子を見ると、そうした困難も大きなやりがいへと変わります。
FUTI(Friends of UTokyo, Inc.)の奨学金は、私のアカデミックキャリアの出発点となりました。資金的な支援だけでなく、志を共にする優秀な仲間たちとのつながりを得ることができました。FUTIで得た最大の成果は、このネットワークの力そのものです。卒業後も多くのFUTI仲間と再会し、意義あるコラボレーションを続けています。たとえば、FUTI2013年度受賞者である山田彬尭氏とは、沖縄県宮古島における言語文化の記録プロジェクトでコラボしています。私たちは現地の神的行事の保存を目指しています。私たちは2人とも言語学者ですが、山田氏のデジタル人文学の知見がプロジェクトにとって大きな力となっています。また最近では、オンライン初級日本語コースを作成するため、日本のスタジオを探す際に、映画監督の後藤美波氏にご協力いただきました。これは、日本の地方の魅力を教材に反映させる良い機会となりました。こうしたつながりは、FUTIという活発なネットワークの価値を証明しており、今後も多くの協働が生まれていくことを楽しみにしています。


