Harvard Medical School Summer Student

By Sumiya Kuroda

東京大学医学部医学科の黒田澄哉と申します。私は今回FUTIのGlobal Leadership Awardを頂き、今年6-8月にかけてHarvard Medical SchoolのWei-Chung A. Lee先生の研究室を訪問しました。当初は、実際に渡米し現地にて研究活動を行わせていただく予定でしたが、COVID-19の感染拡大が収束する見込みが立たず、最終的にリモートで研究プロジェクトに参加することとなりました。

・留学に至るまでの経緯

私がLee先生に初めてお会いしたのはおよそ1年前になります。当時私がお世話になっていた研究室の先生が、米国で面白い研究をされている先生としてLee先生を紹介してくださりました。近々その二人の先生でZoomミーティングを行う予定があるということで、私も飛び入り参加させて頂き、Lee先生と実際に研究内容などについてお話しすることができました。その際Lee先生からsummer studentの募集を検討しているということを伺い、冬にCVなどをお送りしアプライした結果、今回迎え入れてくれることになりました。

・留学先での研究内容

Lee先生は神経科学がご専門で、神経細胞(ニューロン)がどのように互いに接続し回路を形成しているのか研究されています。この神経回路の配線や動作原理を明らかにすることができれば、新しい仕組みの人工知能やロボットの開発につながることが期待できます。

今回私は、運動制御を担う神経回路を調べるプロジェクトに参加させて頂きました。このプロジェクトではモデル動物としてキイロショウジョウバエを扱っています。キイロショウジョウバエは、その小さなサイズにも関わらず、餌を巡って互いに闘ったり速いスピードで走ったりと高度な運動を行うことが可能な生物です。Lee研究室では電子顕微鏡を用いてこのキイロショウジョウバエの神経組織を観察し、筋肉に情報を伝えている「運動ニューロン」を全て3次元再構築していました(Phelps JS, et al : Cell, 184(3) : 759-774, 2021)。しかしながら、この運動ニューロン自体がどのような種類の情報を処理しているのかは未だ分かっていません。

そこで私はこの運動ニューロンに情報を伝えている神経回路の3次元再構築に挑戦しました。3次元再構築には、Neuroglancerと呼ばれるソフトウェアを使用しました。これは、サーバーに保存された電子顕微鏡画像にリモートからアクセスしたり、3次元再構築された神経細胞の形をインタラクティブに校正したりすることが可能なツールです。またプログラミングの経験もあった為、Pythonを使ってこの神経細胞の構造情報を解析することにも取り組みました。

8月後半にはジャーナルクラブやデータトークで発表する機会もありました。プレゼンテーションの作成にあたっては、「いかにイントロダクションで聴衆を惹きつけるか」といった点を強く指導されたことが印象に残っています。今までそのような点を意識したことがなかった為大変勉強になりました。データ解析の技術的なスキルのみならず、研究を行う上で必要な能力全般を向上させることができた3ヶ月だったと思います。

最後になりますが、今回こうしてリモート留学を行い貴重な経験を得ることができたのは、Global Leadership Award を頂いたおかげです。ご支援くださった方々には大変感謝しております。本当にありがとうございました。

↑Neuroglancerの画面。画面左側には電子顕微鏡画像が、右側にはその画像をもとに3次元再構築した神経細胞が写っています。ここではピンク色の神経細胞が運動ニューロンで、水色の神経細胞がその運動ニューロンに情報を入力している別の神経細胞です。左側の電子顕微鏡画像では、水色の神経細胞がピンク色の運動ニューロンに情報を伝えるための特殊な構造を形成しており、これは「シナプス」と呼ばれます。
↑この夏の大半を共に過ごした私のリモートワーク環境です。FUTIから頂いた奨学金で揃えました。夏のリモートワークにはエアコンが欠かせませんでした。